「おろかなる者の宵闇深かりぬ」
「残の月 大道寺将司句集」大道寺将司著
私事で恐縮だが、私の場合、最近、発言の場がどんどん狭まっている。テレビの地上波、全国紙、メジャー雑誌から声がかかる機会が激減した。単に言論人としての“賞味期限”が切れただけかもしれないが、現場の人から「使いにくい」と言われたこともある。反権力を口にする人物を登場させるとさまざまな圧力がかかるのだそうだ。
すべての表現の手段が断たれたら、と考えるときにいつも思うのが大道寺将司のことだ。1974年、「東アジア反日武装戦線“狼”」による三菱重工爆破事件(8人が死亡)の主犯格で、翌年に逮捕された大道寺将司は、その後、死刑判決を受けたまま東京拘置所で過ごしている。社会から隔絶され、明日終わるとも永遠に続くとも知れぬ孤独な勾留生活の心象風景を17文字に凝縮させた句集「棺一基」は、読者に大きな衝撃を与えた。
それから3年を経て出た句集「残の月」で、大道寺はがんを患っていた。「残の月」は「のこんのつき」と読み、朝になっても消えずに空にぼんやり残る月を指すという。作品をいくつか見ていこう。
「狼は繋がれ雲は迷ひけり」「おろかなる者の宵闇深かりぬ」、“狼”を名乗っていた遠い昔へのわずかな郷愁と強烈な懺悔。「八月の沖縄はまた空重し」「滞る廃炉はるかに帰る雁」、独居の中でも沖縄・福島への関心は強烈。「空蝉に荒芒の夜を蔵しけり」「年惜しむ虚ろな闇を抱きては」、圧倒的な孤独、空虚さ。「縮みゆく残の月の明日知らず」「冬ざれの天に拳を突き上ぐる」、命の期限が迫ることを知りながらもなお小さく燃える炎がある。