アメリカ社会に激震 米大統領で本当に負けたのは誰か?
■マスメディアの敗北
今回の選挙結果がいかにも危ういのは、そうした反動のなれの果てだからです。選挙から数日後にはトランプのご機嫌取りで各国首脳があたふたする一方、エコノミストの一部は「マイナス金利解消の朗報」とか「議会との『ねじれ』打破でやっと政治が動く」とか皮算用のオンパレードに走りだしました。相場はギャンブルだから彼らは本能的に楽しんでいるわけですが、社会全体はそうはいかない。では、この究極の不安定の上に君臨するトランプとは何者なのか。そこをマスメディアは見誤りました。
いわゆる「トランプ本」は本人と同じく絶句するような代物だらけですが、ワシントン・ポスト取材班著「トランプ」(文藝春秋 2100円+税)とマイケル・ダントニオ著「熱狂の王ドナルド・トランプ」(クロスメディア・パブリッシング 1780円+税)の2冊は価値ある本です。共通して指摘するのがトランプの奇妙な自意識。彼は自分が笑いのネタにされるのは平気で、前著はその訳を「称賛であれ批判であれ、注目されるのは良いこと」と信じて自分をブランド化しているからだといい、後著はトランプが心の中の「嫌われたがりの子ども」に支配される傾向にあるという。要は子どもの自己顕示。いまどきのお笑い芸人そのもの。
しかしそれが「ブランド化」してしまうのが現代社会の不幸なところで、商業メディアが一斉にトランプに「乗っかった」のもこのためです。でもその結果、大手のニュースメディアがこぞって敗北してしまった。