「爆買いされる日本の領土」宮本雅史氏
北海道は中国の32番目の省になる?――。表紙オビの衝撃的な言葉が目を引くが、実際、東京ドーム513個分の土地が、中国に買収されているという(昨年12月末現在)。
「北海道は毎年、前年度の水源地の面積を公表していて、最新のデータではそのうち31市町村、2411ヘクタールが中国を主とした外国資本に買収されています。一昨年は、1878ヘクタールでドーム400個分でしたから、1年で100個分増えました。しかもこれは水源地に限られるデータで、森林地や個人の買収など水源地と認定されていない場所も含めると、1桁、2桁少ないでしょう。最大、ドーム5000個分は買収されている可能性があるんですね」
たとえば、日高山脈の麓の平取町豊糠エリアでは半分以上の土地が、中国資本の農業生産法人に買われているという。
「最初は、ニセコなどの観光地に中国資本が入っているという話だったんですが、近年はスポットではなく広範囲に100ヘクタール単位で買われているとの情報が多くなっています。山林の所有者が、山林の処分を不動産会社に依頼したところ、いつの間にか中国系企業に売却されていた例もあるし、そもそも北海道は広いから、地元の人もはっきりとした実態は知りません。昨年、北海道入りし、延べ4000キロ以上走って現地取材をしてみると、洞爺湖の月浦温泉、星野リゾートトマム、渡辺淳一文学館などが次々と中国資本になっていることが分かりました」
爆買いによる影響は単に土地の買収だけではない。地元の人々の生活の中にも入り込んでいるというのだ。そのひとつが、学校教育。釧路の西隣の白糠町では何と学校教育に中国語、中国文化学習が行われているというから驚きだ。また、日高山脈の麓の山林は地元住民が知らない間に中国人に買われ、「スイス牧場」の看板が立っていた。中は森林に覆われて、実態は誰にも分からない。不安を感じている住民もいるという。
著者は、中国人による土地の爆買いは、地下資源として豊富な水源地の取得だけが目的でなく、もっと別の狙いがあるのではないかと言う。
「永住権です。道内の中国系不動産会社に勤めていた日本人何人かに取材すると、外国人は日本人と結婚しなくても、土地さえ買えば永住権が得られるというのです。中国人は規制緩和で沖縄から日本に入ると、観光ビザが90日に延長されるんです。そこから北海道に飛んで、90日で法人をつくり、土地を探して、法人名義で買う。法人は資本金500万円以上、従業員が2人以上常駐すると中長期在留のための『経営・管理ビザ』を取得できます」
そして、滞在年数を更新して、10年経つと永住権を申請できるというのだ。
著者が入国管理局に確認すると法的に問題ないことが分かったという。
「日本は安全保障といえば、自衛隊の強化を考えますが、エネルギー、教育、不動産、食料すべて守らなければならないし、そこがすべて狙われています。最後は主権です。領土が広がればいざ有事が起きた際、相手国の拠点になる可能性もあります。かつて日本人がハワイで不動産を買っていたとき、米国は法律を作って、軍事施設、エネルギー施設の周辺といった場所は、外国資本が買えないように対応した経緯があります。中国人たちは非合法的なことをしているつもりはないのでしょうが、問題は、日本に法律がないことです。爆買いを食い止めるには、早急な法整備しかありませんね」(角川書店 800円+税)
▽みやもと・まさふみ 1953年生まれ。産経新聞東京本社編集委員。慶応大学法学部卒後、産経新聞社入社。93年、ゼネコン汚職事件のスクープで新聞協会賞を受賞。著書に「報道されない沖縄」など。