弱小吹奏楽部が有名指導者の赴任で一変

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「グラツィオーソ」山口なお美著/アルファポリス文庫 600円+税

 弱小吹奏楽部が、優れた指導者の登場によって、夢だった普門館の出場を果たす――吹奏楽部を舞台にした小説の常道だが、そこに部員間の確執と友情、恋愛模様、家族や受験の悩みといった要素が加わって、さまざまなバリアントが生まれる。本書はそれらをバランスよく取り入れており、吹奏楽部小説のスタンダードといってもいいだろう。

【あらすじ】中国地方にある修南高校は県下でも屈指の進学校で、柴崎彩音が所属する吹奏楽部は県大会さえ突破できないような弱小チーム。進学校ゆえ、3年生になれば受験優先が当たり前のゆるい部だった。

 しかし彩音が入学した4月、吹奏楽の世界では有名な指導者、水嶋日名子が赴任してから状況は一変。夏には中国大会へ進み、銀賞を獲得。彩音たち1年生は来年こそと期待したが、夏のハードな練習で3年生が受験準備が遅れたと聞き、秋には2年生部員の多くが退部。今や部員は17人で、普門館どころか部の存続が危ぶまれていた。それでも彩音たち新2年生の踏ん張りで新たなスタートを切ることに。

 しかし、問題は山積。1年生にトップの座を奪われたトランペットの美華が部をサボタージュ、チームの要である副部長の土屋の母親が受験の妨げになると娘の退部を強行しようとする。そんな不協和音が演奏にも表れ、音がそろわない。一方彩音は、幼馴染みの那津との関係が恋愛に発展しそうで戸惑いを覚えていた……。

【読みどころ】タイトルの「グラツィオーソ」は音楽用語で「優美に、優雅に」の意。思春期という一種混沌の状況にあるときに、音楽を通して優美さを目指す高校生たちのひたむきな姿が心を打つ。妙な技巧を凝らさずに、真っ向ストレートで描いた青春小説。

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