絶海の孤島からの脱獄物語が44年ぶりにリメーク
スターになった時期が違い過ぎて意外な話に聞こえるのだが、クリント・イーストウッドとスティーブ・マックイーンは実は同い年。前者は60年代末までマカロニ西部劇のドサ回り(?)に甘んじたが、30歳そこそこで世界的スターの仲間入りしたマックイーンは50歳で早死にする前、既に伝説化していた。
そんな彼の後期の代表作を44年ぶりにリメークしたのが今週金曜封切りの「パピヨン」。脱出不可能といわれた絶海の孤島から何度も脱獄を試み、10年以上かけてついに自由を手にしたフランス人の実話の映画化だが、オリジナル脚本を今回もベースにしていることから、新旧を見比べる楽しみもできた。
個人的な感想をいえば主役は旧作のマックイーンが圧倒的。しかし相手役は新旧で甲乙付け難い。古い映画ファンなら覚えているだろう。不屈の反抗児たる主人公パピヨンの相棒になる偽札犯のドガは、ずるくて非力な小男。その役をダスティン・ホフマンが見事に演じた旧作に対して、今回の新作では「ボヘミアン・ラプソディ」のフレディ・マーキュリー役でアカデミー主演男優賞を得たラミ・マレックが絶妙の好演を見せる。私的には「ボヘミアン――」より独創的でいい感じなのだ。
それにしてもいまさらながら驚くのは、戦前のフランスの刑務所における残忍非道。第2帝政時代からあったという仏領ギアナの通称「悪魔島」は、およそ前近代的な体罰と拷問の世界。客席からは「ナチの収容所みたい」という感想を聞いたが、実はフランスの警察や刑務所はつい近年まで、拷問や虐待で国際的にも悪名高かった。
そんなフランスだからこそ、ミシェル・フーコー著「監獄の誕生」(新潮社 5300円+税)のような名著が書かれたのか、というのは皮肉が過ぎようか。
それにしてもこの本、高い。早く学術文庫か何かにすべきでは?
<生井英考>