「しらふで生きる」町田康著
23歳から53歳までの30年間、一日も欠かすことなく酒を飲み続けた著者は、酒飲みとしての人生におおむね満足し、このまま飲み続けていつか死ぬのだろうと漠然と思っていた。
ところが平成27年12月末、酒を飲むのをやめようと突然思ってしまった。なぜそんな考えが湧いたのか釈然としないまま、酒を飲みたい欲求とやめたいという考えの板挟みになりながら、禁酒について考え始める。飲みたいと暴れる肉体をどう制御するか、禁酒会への参加や嫌酒薬について、禁酒宣言をするかしないか、年末年始や旅行時の飲酒への誘惑などなど、さまざまなことを考察しつつ、酒飲みだった頃と違う別の認識を手に入れる中で、気がつけば酒を飲んでいない期間が半年、1年と延びていく。酒を断ったことで得た効果はすさまじく、痩せて、眠れて、仕事がはかどって、小さなことにも喜びを見いだす自分になっていた――。
本書は、禁酒にまつわる内面の葛藤をユーモラスな筆致でつづった禁酒エッセー。禁酒への道のりを内省する過程は、今までとは違う生き方をしたいと試みる人の誠実な挑戦のあり方のようにも感じられる。
(幻冬舎 1500円+税)