中国経済
「中国の自動車強国戦略」李志東著
減速をささやかれながら依然強気の中国経済だ。
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「中国の自動車強国戦略」李志東著
いま中国は「NEV」で世界の覇権を握ろうとしている。NEVは「新エネルギー車」の略で、電気自動車、燃料電池車、プラグインハイブリッド車をまとめて呼ぶ中国独自の呼称だ。国際エネルギー機関によると2022年の世界の自動車販売台数は8105万台。うち13%強がNEV。中国はいずれNEV100%になる日をにらんでいる。自動車の動力が内燃機関(エンジン)だった時代は世界の一部だけが自動車生産を牛耳り、中国は入る余地がなかった。しかしNEVは地位を逆転させる。
本書の著者は日本留学で京大に学んだ中国人研究者。両国の事情に通じるため、日本人の視野から抜ける中国の実情や思惑を指摘する。たとえば石炭火力発電中心の中国でNEVは脱炭素化に結びつかないという批判には、中国の脱炭素事情をデータできっちり示す。
従来の自動車強国の日本は、新興強国の中国を前にどうすべきか。著者は3つのシナリオを示す。第1に「総力戦」でNEVシフトを進める。第2に中国系メーカーとの連携でウィンウィンをめざす。第3にNEVクレジット取引の活用。従来の化石燃料車の生産・輸入に対してNEVの生産・輸入義務を課す制度を利用してクレジットを余分に買いだめし、時間稼ぎをするというアイデアだ。
中国事情を知り尽くした内容が持ち味。
(エネルギーフォーラム2640円)
「新中国産業論」遊川和郎ほか著
「新中国産業論」遊川和郎ほか著
2023年、コロナ後の中国経済は年頭から高い成長率を示し、通年では政府目標を上回る5.2%を達成した。
しかし景気回復は力強さを欠いたと本書は指摘する。習近平政権は目先の景気回復ではなく、産業構造の高度化をめざし、質の高い成長を重視するとともに、政策の多くを共産党の指導下に置いた。これまで経済は専門知識と行政経験にもとづいて首相が担当し、党務中心の指導部と分業してきたのを大きく変えたのだ。これは経済が安全保障と直結する現在の国際政治を念頭に置いたものだろう。
また、科学技術のイノベーションを重視する方針も打ち出し、これを「新質生産力」と呼んでいる。単なる既存の生産力増強ではなく、新興企業と未来企業の育成に力を入れるというのも習政権らしい。
驚くのはこうした政策が全人代で立法化されたこと。全人代はもともと政府部門の政策を議論する場。そういう場で党が政府の上に立つことを立法化するのはこれまでの常識にないことだという。改革開放から既に30年が経ち、これまでの中国理解が通用しなくなりつつあるのだ。著者は香港、上海、北京に駐在歴のある亜細亜大教授。
(文眞堂 3080円)
「中国ファクター」國分良成編著
「中国ファクター」國分良成編著
トランプ勝利で終わったアメリカ大統領選。これでますます米中関係が緊張してくるのはまちがいない。だが、それは「米中の新冷戦なのか、多極化なのか、それともまったく別の形の国際秩序なのか」と本書は序文で問う。
インド太平洋における中国の存在感は過去20年で急増した。中国海軍の増強ぶりは目を見張るものがある。習近平政権の強気はなおさらだ。現政権では党中央外事工作委員会が設置され、国際関係を新たに取り仕切ることになったという。特に東南アジアに対する中国の影響力はすさまじい。
さらに中国は思想工作を行う「宣伝」、国務院(日本の内閣)を傘下に置く「統一戦線」、サイバー戦、電磁スペクトラム、宇宙にまたがる「人民解放軍」の三者間分野で世界を視野に置いた覇権拡大をもくろんでいる。
本書に収められた各論文の多くは東南アジアに注目している。影響を与える側は論じやすいが、影響を受けた側の考察は難しい。それをあえて東南アジアで展開しているわけだ。
慶大教授から防衛大学校長になった編著者の人脈か、慶大・防衛省・日経新聞のつながりが歴然だ。
(日経BPマーケティング 3300円)