「黒武御神火御殿」宮部みゆき著
物語の舞台は、江戸は神田三島町にある袋物屋・三島屋。この店には「黒白の間」という座敷があり、そこで一風変わった百物語が行われている。心のうちに抱えきれない奇怪な話を持った話し手が招かれ、聞き手は話を一切口外しないという約束で始まったこの百物語は、伊兵衛の姪・おちかが長年聞き手を務めてきた。だが、おちかが嫁に行ったことを契機に伊兵衛の次男・富次郎が新たな聞き手を志願した。これまで語り手を周旋してきた灯庵は、富次郎の力量を危ぶみつつ、またもや訳ありの人たちを連れてくるのだが……。
人気の三島屋変調百物語シリーズ第6弾。不可解な色情が一家離散を招いた「泣きぼくろ」、女たちが絶景の丘に登らない理由を語った「姑の墓」、飛脚が道中に遭遇した奇異な出来事を描いた「同行二人」などの4編が収録されている。表題作「黒武御神火御殿」は、神隠しに遭った6人の男女が迷い込んだ不可解な屋敷の物語。日常から非日常に踏み込んでしまった人間が全力で魔の世界から逃げようとする決死の脱出劇に、聞き手の富次郎と一緒に引きずり込まれること必至である。
(毎日新聞出版 1800円+税)