「エレガント・シンプリシティ」サティシュ・クマール著 辻信一訳
「シンプルであることこそが、持続可能性への道」と説く著者は、環境先進国のイギリスにおいて先駆的なエコロジストとして知られる人物だ。本書では、イギリスのエコロジー雑誌「リサージェンス」の編集主幹となり、ホリスティック学を教える大学院大学「シューマッハー・カレッジ」も創設した85歳の著者が、“簡素で美しい生き方”の神髄を伝授している。
物質的にシンプルであることは貧乏を意味するわけではないし、簡素な生き方は快適な生活を諦めることでもない。日本には「わび」「さび」という美学的な概念があるが、そこには「気取らない」「謙虚」などの意味が含まれており、簡素で美しい生き方が表現されていると本書。必要以上に飾り立てず、ありのままで手が込んでいない生き方をすることは、実は日本人の得意とするところかもしれない。
また、目に見える外側を簡素にするには、心の世界もシンプルにすることが重要だと説く。思考をシンプルにして心の中を簡素にすることが、物質的なモノへの欲望を減らすことにつながるためだ。ちなみに、精神におけるシンプリシティーの対極にあるのが名声、特権、権力などへの渇望にとらわれた状態だ。エゴは人生と心を複雑にし、どうしたら力を得ることができるだろうという問いに取りつかれてしまう。
一方、シンプリシティーは謙虚さに通じ、その謙虚さが人との良い関係やコミュニケーション、そして理解へとつながっていく。現代人の人生は非常に複雑化しており、この複雑さが不安やストレスになっていると著者。人生をシンプルにして持続可能性への道を開きたいのであれば、エゴからエコへとシフトすべきだとアドバイスしている。
(NHK出版 1870円)