「佐久間宣行のずるい仕事術」佐久間宣行著/ダイヤモンド社
自由を得たいサラリーマンが読むべき名作
著者は、オールナイトニッポンのパーソナリティーをしている。パーソナリティーは、普通人気タレントが務める仕事だが、それをなぜ普通の中年サラリーマンがやっているのか、ずっと不思議に思っていた。だが、本書を読んで疑問が氷解した。著者は、コミュニケーションの天才なのだ。
サラリーマンをしていたら、誰でも会社からの理不尽な要求に直面した経験があるだろう。私は単純なので、そうした場合の選択肢は、戦うか、服従するかのどちらかだと思い込んでいた。しかし、著者は第三の道を創り出した。それは、敵をつくらない処世術だ。
例えば、著者は「会社に友だちは要らない」と言う。週末ゴルフや飲み会に付き合えば、同僚と仲良くはなれるが、その分自分のプライベートの時間が失われ、消耗する。それよりも、きちんと準備をして、効果的なプレゼンテーションで自分の企画を通したほうが、ずっと自分のやりたい仕事を実現することができるという。そして自分が失敗したときには、素直に、誠意を尽くして謝る。保身の言い訳はしない。正しく謝れば、損をすることはひとつもないのだ。
本書にはそうした処世術がぎっしり詰まっている。そして、どれもが論理的で、納得感がある。
私は学生運動の血をひいているので、権力と戦い続けてきた。だから、前の会社にいたときは、現場が自由に仕事をできるように、会社に人事権と評価権を放棄させる抜本的な人事制度改革を認めさせた。ただ、その過程で社員の半分を敵に回したし、経営陣ににらまれた私は、会社を離れざるを得なくなった。いまでも私は出入り禁止になっている。
もちろん、自分の人生を後悔することは、まったくないのだが、もはや私のような「階級闘争」を繰り広げる時代は、終わったのだと思う。著者の仕事術は、仲間を幸せにする処世術ではなく、自分が幸せになるための処世術だ。ただ、それでよいのだと思う。会社を根本から変えるのは困難だし、一人一人の社員が幸せになることが、みなが幸せになるための最短経路になるからだ。自由を得ようとするすべてのサラリーマンに読んでほしい名作だ。
★★★(選者・森永卓郎)