「日本の絶景無人島楽園図鑑」 清水浩史著
例年より早い梅雨明けと、猛暑の到来で、もうすっかり夏気分。夏休みの計画も気になる。まだ計画が決まっていないという人は、この夏、楽園に出かけてみるのはどうだろう。
楽園と聞いて脳裏に浮かぶ南の島は、いまは多くが観光地化され、世界中から人が集まり、世俗化してしまったところも多い。降り注ぐ太陽の光、どこまでも広がる真っ青な海と美しい砂浜、そして青い空にサンゴ礁、そして何よりも人工物や人工音に邪魔されない静寂な場所。
そんな理想的な楽園が、海外に行かずとも日本にも多数あるという。それは無人島だ。
国内外の無人島を数多く巡ってきた著者が、「自然の造形美以外、ほぼ何もない」とっておきの日本の「絶景無人島」を案内してくれるガイドブック。
まず最初の楽園は、鹿児島県・奄美大島北部、笠利湾で春から夏にかけて、大潮の干潮の時だけ現れる「かくれ浜」。
干潮になると、浜辺から200メートルほどの沖合、エメラルドグリーンの海の中に徐々に真っ白でさらさらの砂浜が現れ、遠浅の海を歩いて渡ることができる。昼間出現するのは年間で9日ほどしかないが、写真を見るだけでまさに楽園。
本書ではこうした現れては消える(干潮時のみ現れる低潮高地を含む)島も、幻のようなひとときだからこそ美しいと絶景無人島に仲間入りしている。
沖縄の糸満市の港から約13キロにある「ルカン礁」は南太平洋やインド洋ではよく見られるが、日本では、まれな丸いサンゴ礁(環礁)。環礁は、地殻変動などによって中心にあった島が沈み、島を中心にして丸く取り囲んでいたサンゴ礁がドーナツのような形で残ったもの。周囲5キロの「ルカン礁」は、沖縄の那覇空港を離発着する飛行機の機上から眺めることもできる。
交通ルートはないが、著者は漁港から遊漁船を出してもらい灯台の桟橋から上陸し、人っ子ひとりいない環礁を独り占め。中央部のラグーンや環礁の外側で海水浴まで楽しんだという。
どの島も住人はおらず、公共交通機関もないところがほとんどで、こうして干潮時を狙ったり、渡船交渉をして「上陸」する。しかし、その手間暇をかけてこそ楽園でのひとときがかけがえのない時間になるのかもしれない。
それではハードルが高すぎるという人には、福井県敦賀市の「水島」がおすすめ。夏季だけ観光船が運航されるこの島は「北陸のハワイ」と呼ばれ、年間5万人もの海水浴客でにぎわうのだとか。
でも、クロマツが茂るふたつの小島が全長600メートルもある白い砂州で結ばれ細長くのびているので人は散らばり、賑わいと静かさが共存、美しい情景を心穏やかに楽しむことができるという。
全37島を自らめぐり、その紀行文と写真で紹介。写真を眺めているだけでも楽園気分に浸れるおすすめ本。
(河出書房新社 1650円)