著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「豪球復活」 河合莞爾著

公開日: 更新日:

 タイトルからわかるように、野球小説である。50年に1人の逸材と言われた天才的ピッチャー矢神がアメリカで失踪して半年。東京ティーレックスの同僚・沢本が、オアフ島でホームレスになっていた矢神を発見する。急いで日本に連れ帰るが、矢神は球団関係者の前で、へなへな球しか投げられず、自由契約を宣告される。

 もともと矢神は肩を痛め、その手術のために渡米したのだが、結局完治しなかったのだと解釈されたわけである。それに反発したのが沢本で、ハワイで一度、矢神が凄い球を投げるところを目撃していたので、球団の結論に納得がいかず、矢神は2人だけの極秘トレーニングを開始する。

 で、豪球が戻ったので、東京ティーレックスとはライバルの球団に売り込む──というのがちょうど物語の半分。全体の3分の2までは紹介してもいい小説だと思うのだが、やはりここまでにしておく。

 実はこれ、ミステリー小説でもあり、その手がかりというか、断片が随所にあるのだが、その詳細もここには書かないでおく。書くことができるのは、ラスト100ページ強が圧巻であることだ。それを読み終えると、すごくシンプルに思えた話が、実は奥行きのある物語であったことに気がつくことだ。

 野球小説としても迫力満点だが、それだけではないことが素晴らしい。特筆すべきは後味がいいことで、おお、書きたいが我慢。

(講談社 2090円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

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