著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「帰ってきたお父ちゃん」水島かおり著

公開日: 更新日:

 すさまじい小説だ。

 娘が父親の頭の上からビールの大ジョッキをぶちまければ、母と娘がグーで殴り合い、相手を庭に放り投げる。もうめちゃくちゃである。

 夫婦喧嘩もしょっちゅうだが、娘VS母親、娘VS父親のケンカも盛んで、この三つ巴の戦いが延々と繰り返される。長男だけがおろおろしていて、おお、大丈夫か。

 とんでもない家庭である。この父親は土建業の頭としてばりばりと働きはするのだが、いくら稼いでも酒と女と賭け事にどんどん使ってしまって家に生活費を入れないのだ。すべての原因はそこにあるのだが、母親も娘も強情で負けず嫌いなので、家庭内にとんでもない暴力の嵐が吹き荒れるのである。もっとも、いったい誰が勝者なのかわからない戦いなのだが。

 そういう家族の日々を娘の側から描いたのが本書で、女優であり、脚本家でもある著者の半自伝的小説である。

 とんでもない父親に家族が悩まされる、という小説は珍しくない。しかし本書が、その手のケースと一線を画すのは、ほかの家族が父親に負けていないことで、この場合は母親と娘になるのだが、顔中に青タンをつくって膨れ上がるのは、運命などにけっして負けないという彼女たちの勲章なのだ。

 暴力の嵐が吹き荒れる小説なのに殺伐とした気分にならず、むしろこの家族全員をいとおしく思えてくるのも、そのためだろう。

(講談社 1870円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ吉井監督が佐々木朗希、ローテ再編構想を語る「今となっては彼に思うところはないけども…」

  2. 2

    20代女子の「ホテル暮らし」1年間の支出報告…賃貸の家賃と比較してどうなった?

  3. 3

    【独自】フジテレビ“セクハラ横行”のヤバイ実態が社内調査で判明…「性的関係迫る」16%

  4. 4

    「フジ日枝案件」と物議、小池都知事肝いりの巨大噴水が“汚水”散布危機…大腸菌数が基準の最大27倍!

  5. 5

    “ホテル暮らし歴半年”20代女子はどう断捨離した? 家財道具はスーツケース2個分

  1. 6

    「ホテルで1人暮らし」意外なルールとトラブル 部屋に彼氏が遊びに来てもOKなの?

  2. 7

    TKO木下隆行が性加害を正式謝罪も…“ペットボトルキャラで復活”を後押ししてきたテレビ局の異常

  3. 8

    「高額療養費」負担引き上げ、患者の“治療諦め”で医療費2270億円削減…厚労省のトンデモ試算にSNS大炎上

  4. 9

    フジテレビに「女優を預けられない」大手プロが出演拒否…中居正広の女性トラブルで“蜜月関係”終わりの動き

  5. 10

    松たか子と"18歳差共演"SixTONES松村北斗の評価爆騰がり 映画『ファーストキス 1ST KISS』興収14億円予想のヒット