「日本の自然風景ワンダーランド」小泉武栄著
風景には必ず「理由」がある。長い歳月をかけて今に至った要因だ。地形や地質からその土地の成り立ちや人の営みを推理、解説するタモリのあの人気番組を見ればそれがよく分かる。本書では、地理学者の著者が地形や地質に加え、植生にも注目して日本各所の風景の不思議を読み解いていく「知的観光の勧め」。
冒頭で取り上げられるのは北海道東部、根室海峡に面した野付半島。釣り針のような不思議な形をしたこの半島は、砂嘴の代表として地理の教科書にも登場する。
砂嘴とは沿岸流によって運ばれた土砂が、海に堆積してできる鳥の嘴の形をした地形のことだ。
長さ26キロに及ぶこの野付半島のちょうど釣り針のように曲がり始める部分に、かつて枯れて白骨化したトドマツの林が続く「トドワラ」と呼ばれる名所があったという。枯れたトドマツの樹齢は100歳前後で、おそらく地盤沈下による塩害を受け枯れたと思われる。
一方で砂嘴の半ばにはミズナラやカシワが林をつくっている場所がある。その違いを2500~2000年前の形成年代にまでさかのぼり分析する。
他にも、仏ケ浦の奇勝や恐山を擁する下北半島がなぜマサカリ(斧)のような形をしているのかに迫るなど、まずは「海」の風景に注目。
以降、さまざまな高山植物が生育する広大なお花畑が魅力な北アルプスの八方尾根などの「山」の章をはじめ、福島県の磐梯山の爆発カルデラ(崩壊によってできた馬蹄形のくぼみ)の植生分布などに注目する「火山」や、三重県の赤目渓谷などの「渓谷・谷」まで、6つのテーマで、日本各地の景勝地53カ所の風景の成り立ちを読み解く。
ガイドブックには決して載っていない名所の謎を知れば、旅行が一層充実するはずだ。
(ベレ出版 2530円)