「日本のシン富裕層 なぜ彼らは一代で巨万の富を築けたのか」大森健史著/朝日新書
なるほど、こんな手があったのかと、思わず膝を打った。
最近、若い人を中心に一発当てて、大金持ちになる人が増えているなと肌では感じていた。しかし、そうした人を対象とした調査はないし、大量のインタビューをまとめることも不可能だと思っていた。ところが、著者の本業は、移住コンサルタントで、これまで多くの人の移住をサポートするなかで、「シン富裕層」という新しいタイプの億万長者とのコミュニケーションが生まれたというのだ。確かにシン富裕層の多くが海外への移住を目指している。富裕層は税金を支払うのが大嫌いだから、所得税や相続税が存在しない海外に脱出しようとするのだ。
著者は、シン富裕層を①ビジネスオーナー型②資本投資型③ネット情報ビジネス型④暗号資産ドリーム型⑤相続型──の5つに分類している。①と⑤は、昔からあったお金持ちのパターンだが、最近急増しているのが、資本投資型とネット情報ビジネス型と暗号資産ドリーム型だ。株式や暗号資産に投資をして、莫大な利益を上げたり、ネット空間で大儲けをした人だ。本書では、それぞれのパターンごとに、コンサルティング業務のなかで得られた情報をふんだんに盛り込んでいるので、話が具体的で、とても説得力がある。それぞれのパターンごとに、富裕層の人間性さえ浮かび上がってくるのだ。
本書を読んでとても驚いたのは、アメリカでさえ、大金を投資すれば永住権が得られるという事実だ。移住の沙汰も金次第という現実があるのだ。ただ、なぜシン富裕層が海外を目指すのかといえば、日本の未来に絶望したり、もっと大きいのは、いつの間にか日本が重税国家になってしまったからだろう。暗号資産は別として、日本は株式投資や不動産投資で得られた利益に対する課税が甘い一方で、庶民が負担する税・社会保険料がとてつもなく重くなっている。だから、シン富裕層の海外脱出という判断はとても合理的で、彼らの真似をして一発大儲けを狙おうとする読者も多いかもしれない。ただ私は日本が好きなので、日本の重税構造を直していくことを優先して欲しいと思う。 ★★半(選者・森永卓郎)