「地図でスッと頭に入る 世界の民族と紛争」祝田秀全監修
ロシアによるウクライナ侵攻をはじめ、新疆ウイグル自治区での人権問題やイギリスのEU離脱など。ニュースをにぎわすこれらの事象を引き起こした要因はさまざまだが、その多くに関わっているのが「民族」だ。
その民族をキーワードに世界各地の紛争や対立、経済、歴史、文化を地図とイラストで解説するビジュアルテキスト。
そもそも民族とは何か。身体的特徴やDNAなどの遺伝的特徴で分類する人種に対し、民族は言語、文化、慣習など社会的な特徴によって分類する。
とくに言語は重要な指標で、インド・ヨーロッパ語族(英語・フランス語・ヒンディー語など)、アフリカ・アジア語族(アラビア語など)、アルタイ語族(トルコ語など)、シナ・チベット語族(中国語など)といったグループに区分される。ちなみに日本語は、起源がわからない「孤立した言語」と言われているそうだ。
世界最大の民族は、中国の国内人口の9割、海外在住者を含めると14.5億人に達する漢族だ。そのルーツは4000~5000年前に黄河中下流域で農耕を始めた人々だという。一方で、中国には漢族の他に50以上の少数民族が暮らしている。そのひとつ、トルコ系イスラム教徒のウイグル族や、同じく弾圧されているチベット族の歴史をひもとき、その独立を阻止しようとする中国政府の狙いや現状を解説する。
ほかにも、かつては同じ国だったが、いまは分裂して激しく対立するインドとパキスタン、国を持たない最大の民族クルド人、ヨーロッパの火薬庫ともいわれるバルカン半島の複雑な民族事情、ナイジェリアの経済成長の妨げとなっている3大民族の勢力争いなど。複雑な国際情勢や紛争・対立の背景がよく分かり、世界やニュースをより理解するための副読本に最適。 (昭文社 1650円)