「箸置きの世界」串岡慶子著
なくても不自由はしないが、あればいつもの食卓がグレードアップした気分になる。多くの人にとって箸置きとはそんな存在ではなかろうか。しかし、箸置きを使うと箸の位置が決まり、取り扱いやすくなるだけでなく、食事の姿勢も正しくなる。さらにゆっくりと食べるようになりダイエットや生活習慣病の予防につながり、食卓に季節や遊び心を添える箸置きから会話も弾み、いいことずくめなのだという。
そんな箸置きに魅せられ、長年収集しているという著者が、その膨大なコレクションから選りすぐりを紹介しながらその魅力を案内してくれるグラフィックブック。
まずは四季の食卓に箸置きを組み合わせて紹介。
お正月、お節料理に添えるのは、縁起物の「結び文」の箸置き。他にも、羽子板やコマなどの意匠もあり、なんともお正月にふさわしい。
春の食卓には、桜色に染まった山々や花見団子を模したもの、夏には水色の渦巻き文や扇面にカエルや水玉模様を描いたうちわ形と、見ているだけで楽しくなってくる。
コレクションの中には、茶道の千家十職・楽家11代慶入作の「耳皿」や魯山人による鯛形など、名のある作家が作った箸置きもあるが、ほとんどは無名の職人たちによるもの。四季の野菜や魚などの食材から、季節ごとの花、干支など、どれもさりげなく食卓を彩る。
耳目とは古代から神様に供える神饌(食事)などに添える箸をのせるために使われたもので、箸置きの起源とされる。しかし、現在のような箸置きが登場するのは明治以降になってからと、意外に歴史が浅いものらしい。
そんな歴史なども振り返りながら、箸置きや箸立てを含め約700点ものコレクションをテーマごとに紹介。
まずは食器棚にしまったままの箸置きを出して使ってみよう。
(平凡社 2090円)