資本主義の<次>
「資本主義の次に来る世界」ジェイソン・ヒッケル著、野中香方子訳
もはや手のほどこしようのないほど広がった経済格差。資本主義の限界ともいわれる。では「その次」はあるのか?
「資本主義の次に来る世界」ジェイソン・ヒッケル著、野中香方子訳
アメリカの哲学者ジェイムソンは「世界の終わりを想像するより、資本主義の終わりを想像するほうが難しい」と言ったそうだ。そんなことばを引用する本書の著者は経済人類学者。南アフリカで出稼ぎ労働者と暮らし、搾取経済の実態をよく知る立場で本書を書いた。
原題は「レス・イズ・モア」。装飾のない近代デザインは、より多くの機能と価値を実現できるとする建築分野のことばだが、著者はこれを資本と人間の関係に当てはめる。
その要点は「経済成長」という神話から脱却すること。最富裕層の購買力を下げるだけで炭素ガスの排出削減も楽に達成可能になる。グローバルサウスのような途上国にとってさえ、成長神話からの解放は、かつて帝国主義で世界に君臨した先進国からの脱植民地化を実践する道に通じるのだ。
本書は世界が人新世を迎えたいま、「支配と搾取を軸とする経済から生物界との互恵に根差した経済へ移行できるか」こそが問題だという。成長しなくても繁栄できること。それがポスト資本主義への扉を開くのだ。 (東洋経済新報社 2640円)
「99パーセントのための社会契約」アレック・ロス著、依田光江訳
「99パーセントのための社会契約」アレック・ロス著、依田光江訳
「上位1%だけが富を独占する」ことへの抗議で始まったのが12年前の「ウォール街占拠運動」。本書のいう「99%」はむろん「世の大多数」つまり普通の庶民のこと。その人々のために会社は、国は、市民社会はどうあるべきなのかを議論しているわけだ。著者は米オバマ政権時代にヒラリー・クリントン国務長官の上級顧問をつとめた。情報政策の専門家だが、話題は社会政策全般に広がる。
たとえば第1章では、昨今の社会を牛耳る「株主資本主義」は、実は20世紀の前半には存在していなかったという。その時代の企業は利益を上げるだけでなく、従業員の福利厚生と公益に奉仕する存在だった。だが、70年代以降、企業は利益至上主義にしだいに傾き、株主の利益を最大化するのに腐心するようになる。
しかし、必要なのは企業の活動で影響を受ける「利害関係者」(ステークホルダー)のための資本主義だ。「株主」(シェアホルダー)から「ステークホルダー」へ。そのスローガンの実効力を本書は真摯に議論する。 (早川書房 2640円)
「資本主義の〈その先〉へ」大澤真幸著
「資本主義の〈その先〉へ」大澤真幸著
「民主主義は最悪の政治形態だ」というチャーチルの有名な警句をもじって、著者は「資本主義は最悪のシステムだ」という。「しかし、資本主義よりもましなシステムはほかにない」。ほんとうにそうなのか?
社会学者の著者は、資本主義の終わりが迫っているという予感と、資本主義はけっして死なないという矛盾する予感の板挟みになっているのが現在ではないかという。そしてマルクスを徹底的に読み直すことでこの問いに答えようとするが、それも一筋縄ではない。
マルクスが資本の解明に取り組んだ19世紀と同じ時代に生まれた科学と小説にまで話題を広げ、近代における人間と社会の根底までを解き明かそうとする。近代における知と物語の関係をマルクスの「使用価値」と「交換価値」に置き換えて説明するくだりなど独創的な知見が光る。
「ですます」調で書かれた本書は、もともと版元が一般向けに主催した連続講座の記録から始まったという。 (筑摩書房 2640円)