秋の夜長に!最新ミステリー本特集
「約束した街」伊兼源太郎著
暑すぎた夏がようやく去り、読書の秋もいよいよ本番。秋の夜長を楽しむのにピッタリのミステリーを紹介する。どの作品も徹夜必至の面白さなので、くれぐれも寝不足にはご注意を。
◇
「約束した街」伊兼源太郎著
海外赴任を控えた商社マンの結城が帰宅すると、部屋の前で少女が待っていた。彼女は、中学時代の友人ニナの娘ジーナだと名乗る。中学3年だというジーナによると、ニナが神戸に行くと書き置きを残したまま1週間、連絡が取れないという。
ジーナの幼い頃に父親は事故死しており、ニナは何かあったら結城を頼るよういつも娘に話していたらしい。神戸の中学校で知り合ったニナとは、卒業時に15年後の再会を約束して別れたまま一度も会っていない。結城たちは44歳になっていた。
ジーナとともに28年ぶりに神戸に降り立った結城は、ニナを孫のようにかわいがっていた南京町のばあやに会いに行く。華僑のばあやは裏社会に通じ、情報が集まってくるがニナのことは知らないという。結城はもう1人の親友・ジョンホとともにニナの行方を捜す。
中学時代に固い友情で結ばれた3人の人生が神戸の街で再び交錯する。
(幻冬舎 1980円)
「素敵な圧迫」呉勝浩著
「素敵な圧迫」呉勝浩著
幼かったころの広美の密かな楽しみは、押し入れの隙間に寝転ぶことだった。しかし、暗闇で感じる抱擁にも似た素敵な圧迫は、成長するにつれ窮屈になり下がった。
大学進学を機に1人暮らしを始めた広美は、専用の冷蔵庫を購入し、その中に収まりその欲求を満たす。一方で、男遊びに精を出し、さまざまな男に抱かれてみたが、どれも圧迫がいまひとつで満足させてくれる男はいなかった。
世の中に完璧な圧迫などないと諦め、冷蔵庫に収まる日々を過ごし、27歳になった広美は、ついに理想的な男と出会う。その男・遼は、肉づき、骨格、肌質、さざ波のように押しては返す力加減、どれをとっても完璧だった。広美は、正式な恋人になりたいと思いのたけをぶつけるが、彼にはフィアンセがいた。
そのほか、昭和43年の3億円事件をモチーフにした「ミリオンダラー・レイン」など、6作を収めた短編ミステリー集。
(KADOKAWA 1980円)
「存在のすべてを」塩田武士著
「存在のすべてを」塩田武士著
新聞社の支局長・門田は、元刑事・中澤の葬儀の帰り道、彼の部下だった先崎に声をかけられる。見せられた週刊誌に、人気写実画家の如月脩が実は30年前の誘拐事件の被害者・内藤亮だという暴露記事が載っていた。
1991年12月、厚木市内で小学生の敦之が、翌日にも横浜市内で資産家の4歳の孫・亮が誘拐される事件が発生。警察は前代未聞の2児同時誘拐事件を捜査することになり、横浜の事件を担当したのが中澤だった。しかし、犯人は身代金の受取場所に現れず、その後、敦之は保護されたが、亮は行方不明、事件も未解決のまま月日が流れた。
そして事件から3年後、亮が祖父母宅に突然戻ってきたが、彼はこの3年間について何も語ろうとしなかった。当時駆け出しの記者として取材にあたっていた門田は、わずかな手掛かりをもとに覆面画家として活躍する如月の取材を始める。
事件の真相と、亮の空白の3年間にたどりつくまでを描く長編。
(朝日新聞出版 2090円)
「蒼天の鳥」三上幸四郎著
「蒼天の鳥」三上幸四郎著
大正13年7月、女流作家の古代子は7歳の娘・千鳥と、鳥取駅近くの劇場に活動写真を見に行く。演目は12年ぶりに上映される「探偵奇譚 ジゴマ」だ。一番前の桟敷で見ているとスクリーンの裏側から火の手が上がる。突然の火事で、場内が騒然となる中、古代子と千鳥は、画面から飛び出してきたような格好の男が観客の1人を刺すのを目撃。男は2人にも迫ってくるが間一髪難を逃れる。
2日後の夜、古代子と千鳥は自宅前で何者かに襲われるが、社会主義運動の活動家で、古代子の内縁の夫・涌島に助けられる。涌島は犯人に心当たりがあるようだ。
翌日、友人の作家・翠と旧知の新聞記者から捜査状況を聞き出すと、被害者の腕に特徴的な刺青があったらしい。それを聞いた千鳥の顔が曇る。新任の担任教師の加村の腕にも同じ刺青があったという。
実在した女流作家親子を探偵役に仕立て描く歴史活劇ミステリー。第69回江戸川乱歩賞受賞作。
(講談社 1925円)