「古墳と埴輪」和田晴吾氏

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「古墳と埴輪」和田晴吾氏

 15万9953。これ、なんと国内の古墳の数である。よく知られている前方後円墳のほか、前方後方墳や横穴など大小合わせた数だが、驚くべき多さである。

「古墳は土や石の高まり(墳丘)のある古いお墓を意味するので、本来は生きていた人すべての数があるはずです。しかし、実際残っているのは今でいう家長クラスに相当する村の有力者以上の墓だけ。現在、前方後円墳が4700、前方後方墳が500、そのほかは円墳、方墳、横穴など規模の小さい群集墳と呼ばれる墓が発見されており、その数はなんとコンビニや寺院、神社の数より多いんです。古墳って案外身近なものなんですよ」と、著者。

 意外なことに、前方後円墳が最も多いのは千葉で、以下、茨城、群馬と続く。ただし、大半が中小規模のもので、200メートル以上の巨大古墳となると、奈良(旧大和国)20基と大阪(旧河内国・和泉国・摂津国の一部)16基と、畿内に集中している。

 本書は、50年以上考古学に携わってきた著者が古墳とは何かを解説し、棺や埴輪を通して、その社会的役割や古代人の他界観を考察したものだ。

「金銀銅鉄など鉱物資源や特殊な産物がなかった社会において最大の富は人。人海戦術で大規模な盛り土による巨大な前方後円墳を作ったのは、権勢と軍事力を見せつけるためでもありました」

 ザ・権力の象徴、古墳だが、面白いのは内部の埋葬施設に、当時の人たちの死生観が垣間見られることだという。

「古墳前期・中期の埋葬施設に入れる棺は据え付け型でした。遺体に邪悪なものが寄りつくのを防ぐため密閉された棺は、竪穴式石槨(墳丘に竪穴を掘ったところに棺を設置し、周囲を石で囲む)に納められましたが、古墳後期になると石を積んで室を作り、そこに棺を置く横穴式石室となるんですね」

 竪穴式と大きく異なるのは、石室に外部へつながる通路が設けられたこと。遺体に対する敬虔な気持ちは変わらないものの、死者の空間に生きている人が入れるようになり、追葬も可能となった。また横穴式石室が九州に入ってきたのは畿内より100年ほど早く、基本的に遺体は床置きスタイルだった。石室で死者が自由に動けることを前提としたものだったらしい。

 そして古墳の表面には、他界、いわゆるあの世を表現するために、埴輪や木製品などが設置された。

「埴輪は後世の人に被葬者(首長)の儀式や功績を伝えるために作られたのではなく、被葬者があの世で暮らすためのものでした。他界は現実の延長線上にあり、だから埴輪は器財など実用品の模造であり、被葬者に奉仕する人々や動物をかたどっています」

 この他界の表現様式はヤマト王権によって管理されており、自由に埴輪の種類などを変えることはできなかったという。また、埴輪の配置にはストーリーがあった。

「死者の魂は鳥に誘われた船に乗り、他界へと赴き、他界の入り口である波止場で船を下り(船と水鳥の埴輪)、墳丘の頂上にある屋敷(家の埴輪)に住む。屋敷には日々、海や山の幸がお供え(食物形土製品の埴輪)され飲食物が豊富という理想の世界です」

 本書では、他にも古代中国と日本の葬送儀礼の比較や伝播経路、九州と畿内の葬制の違いなど、興味深い考察がぎっしり詰まっている。

(岩波書店 1342円)

▽和田晴吾(わだ・せいご) 1948年奈良県生まれ。京都大学助手、富山大学人文学部助教授、立命館大学文学部教授、兵庫県立考古博物館館長を歴任。現在、立命館大学名誉教授、兵庫県立考古博物館名誉館長。著書は「古墳時代の葬制と他界観」「古墳時代の王権と集団関係」など。

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