「噓の真理」ジャン=リュック・ナンシー著 柿並良佑訳

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「噓の真理」ジャン=リュック・ナンシー著 柿並良佑訳

 今秋始まったテレビドラマ「嘘解きレトリック」は、人の嘘が聞き分けられる能力を持つ主人公と貧乏探偵とが事件を解決していくというもの。主人公はその特異な能力のために周囲から疎まれ孤独をかこっていたという過去を持つ。本書の著者は言う。「子どもにとって嘘はほとんど日常的でありふれたもの」であり、「いつもちょっとは嘘の中で生きて」いると。そんな子どもたちにとって主人公の存在は日常を打ち破る不気味な者と思えたのだろう。

 本書は子どもたち(と同伴者)を相手に、哲学、人類学、美術など多様な分野の専門家が講演する「小さな講演会──子どものためのリュミエール啓蒙=光」シリーズの一冊。著者は高名なフランスの哲学者で講演時は77歳。このシリーズで著者は神・正義・愛などのテーマで講演を行っているが、嘘というのは、これまでの中でも「一番難しい主題ではないか」と語っている。哲学と嘘といえば、有名な「『クレタ人はみな嘘つきだ』とクレタ人が言った」という「クレタ人のパラドックス」があるが、嘘の持っている本当の側面、真理というのは単純ではない。

 この難問を著者は、宿題をしていないのにしたと嘘をつくという日常的なものから、難民をかくまっているのにかくまっていないと嘘を言って難民を守る場合、トランプ米大統領(当時)が北朝鮮に原子爆弾を落としてやると脅す嘘など、さまざまな場面を挙げながら問題を提起していく。興味深いのは講演後の子どもたちとの質疑応答だ。「誰でも嘘をつくんですか?」「嘘をつくのに年齢って関係あるんですか?」「良い嘘と悪い嘘があるの?」といった質問が次々に発せられて、著者はフランス人らしくエスプリの利いた答えを返していく。

 ちなみに「他人が嘘をついているのを見抜く方法はありますか?」という質問もある。答えは読んでのお楽しみ。 〈狸〉

(講談社 1650円)

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