公演中に軍刀を持った暴漢に襲われた橋幸夫
<1963年5月>
橋幸夫が若手スター歌手として絶大な人気を誇った63年、ショーの最中にサーベルを持った男に襲われるという事件があった。橋は気丈に刀を掴んで暴漢に立ち向かったものの、全治2週間の大けがを負った。
5月12日、金沢市の金沢市観光会館では「橋幸夫ショー」が開かれていた。白と黒の華やかな着物を着た橋(当時20)がフィナーレの曲の「北海の暴れん坊」を歌い終わる。
会場の1500人のファンは歓声を上げ、色とりどりのテープがあちこちで飛び交う。舞台の緞帳(どんちょう)が下がり始めた。ちょうどその時、若い男が舞台上手に上ってくる。男は白い布袋を右脇に抱え、しばらくはステージ上に突っ立っていた。橋は「ファンのひとりが何かプレゼントを持ってきたのだろうか」と思ったという。
だが、男が白い袋の中から取り出したのは軍刀だった。男は刃渡り65センチの刀を振りかざし、橋にいきなり襲いかかる。
橋は危ないと敏捷(びんしょう)に体をかわす。刀の直撃はよけられたが、切っ先が頬を薄く切り裂いた。観客たちはまだこの時点でも事態をのみ込めず、あるいは演出のうちの殺陣かと思い静まっていた。