2人っきりの時は「九ちゃん」と。それがくすぐったくて…

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 花緑が語る小さんのエピソードは、孫の目を通したものなのでほほ笑ましい。たとえば、一緒に喫茶店に行った時の話だ。

「目白の自宅近くに行きつけの寿司屋があって、そこで食べた帰り道、必ず喫茶店に寄るんです。よく食べる師匠でしたから、スイーツも好きで、『コーシーにミルシーユ』って注文する。『コーヒーとミルフィーユ』を江戸っ子が言うとそうなります。お腹の中で握り寿司とケーキが重なってミルフィーユ状態になってるのを想像すると気持ち悪いですけどね」

 可愛い孫と過ごす時間は楽しかったに違いない。ただ、当時の花緑はとにかく忙しく、一緒にいる時間が少なかった。

「それだけは悔やまれます。たまに親子会で一緒になると、舞台袖や楽屋のモニターで僕の噺を聴いてました。一度だけ褒めてくれたことがあります。亡くなる1年前、横浜の県民ホールでの親子会でした。師匠はもう体がしんどくて、短いネタしかやらない。その分、僕が大ネタをやる。その時は『中村仲蔵』を50分やりました。後に上がった小さんが、『今日は孫、良かったでしょう』って言ったんです。すると客席から大きな拍手が起こって。師匠が弟子を褒めることなんて一度もなかったので驚きました。その後、『これからはあたしが一席で、花緑に二席やらせます』と言って、得意の『強情灸』を15分やりました。それが最後の親子会になりましたね」

 小さんの思い出話になると花緑の目が潤む。(つづく)

(聞き手・吉川潮)

▽やなぎや・かろく 1971年、東京生まれ。中学卒業後、祖父・5代目柳家小さんに入門。2年半で二つ目に昇進し、22歳の時、戦後最年少で真打ちに。10月26日(金)、27日(土)、イイノホール(東京)で独演会「花緑ごのみvol.36」を開催。新作「鶴の池」(バレエ「白鳥の湖」の落語仕立て)を披露する。著書「花緑の幸せ入門『笑う門には福来たる』のか?」(竹書房新書)が発売中。 

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