愛想のないエレベーターボーイがタップを覚えて直談判した
その後、深見に「師匠、私のタップを見てください」と声をかけた。
「センスがあったんです。深見は『なんだ、おまえ、なかなかだなあ。欠員が出たら使ってやるよ』って。その後、たまたまコメディアンが病気で舞台を休んだ日があって、チャンスが回ってきた。ことわざに〈チャンスの神様は前髪しかない〉ってのがあるでしょう? 浅草にも、数多くの芸人が来ては去っていったけど、本人の才能や努力に加えて、やはり運も関係しているんですよ。欽坊(萩本欽一)にも同じことを思いましたね」
たけしは、しっかり代役を務めた。その姿には、深見も驚いたという。
「エレベーターボーイをしながら、タケは幕あいをのぞいて、誰に教えられるでもなく学んでいたんだ。これが芸人になるきっかけ。一生懸命努力するセンスがあったのが大きいね」
この頃、かつての座付き作家の井上ひさしも、仕事でフランス座を訪れている。すでに井上は、直木賞の受賞作家として活躍していた。そのときに乗ったエレベーターでたけしに遭遇している。後年〈ものすごい不機嫌な青年がいたんですよね〉とたけしとの対談で語っていた。