愛想のないエレベーターボーイがタップを覚えて直談判した
ビートたけし(北野武)<後編>
明大生だったたけしが、浅草フランス座でチケット売り場のおばちゃんに「コメディアンになりたいんだけど」と声をかけた。これがキッカケで、フランス座のエレベーターボーイの仕事を始める。
1階から3階は東洋劇場で、4、5階にフランス座。その間を1台のエレベーターが行き来する。たけしは、客が入ったらドアを閉めて、客を希望階に連れていった。
「接客業ですよ。だけどタケは愛想がなくてね。当時の私も支配人に『新エレベーターボーイです』と紹介されて会いましたが、礼儀正しいけど、どこか暗い印象で……。コメディアンを目指しているなんて、想像もできませんでした」
客がいないときは、エレベーター前で文庫本を読んでいる。「だけど掃除なんかはきちんとするから、クビにはできない」という状況だった。
このエレベーターは芸人やスタッフも使った。たけしは、師匠となる脚本家で“伝説の浅草芸人”と称される深見千三郎とも、ここで出会った。
「タケは『師匠、芸人になりたい』と直談判したといいます。深見も、最初は『大学やめてコメディアンになろうってやつがいるか!』と一喝したそうですが、そのうち本気だと感じるようになり、『おまえ、一体何ができるんだ』と質問した。でもタケは何もできません、と。それでタップを教えたんですね。それからタケは、時間が空けば屋上で練習していたよ」