ずん飯尾和樹さん スベってもいいから声を出すと決めたのが分岐点…先輩からの数々の助言プレーバック!
「ずん」飯尾和樹さん(お笑い芸人/52歳)
バラエティーやCMで大活躍する絶好調の中年芸人、ずんの飯尾和樹さん。ブレーク前にふとした出来事で一念発起した「その瞬間」があるという。先輩たちのアドバイスの数々とあわせて語ってくれた。
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確か2007年、38歳くらいの頃の年末でした。僕はいろんなコンビを組んできて2000年にずんを組み、少しテレビには出ていて微妙に食えてはいたけど、忙しいには程遠い状況で。でも、2人ともノンキなのか危機感がないのか、気にしてなかった。
その日、相方のやすといつもネタを考える大井町の喫茶店に2人でいたんですよ。12月27日から3日連続でその店でネタ作り。その夜は同期のキャイ~ンと忘年会をやろうってことになってました。
ウド(鈴木)君から電話が入り、「年末の特番が押していて1時間遅れます」と言われ、やすにそのことを伝えた瞬間ですよ。
■年末の忙しい時期に3日連続で喫茶店でネタを書いてるぞ
「あれ? 年末の芸人が忙しい時期に、俺たち3日連続で喫茶店でネタ書いてるぞ」と声を上げ、2人で「ヤバイんじゃないか!?」と。自分たちは芸人でやっていけてる気がしていたけど、本当は何もできていないんじゃないかと気づいた瞬間だったんです。
大御所の芸人はクリスマスに仕事を終えて海外に行き、年末年始はその下の芸人のかき入れ時じゃないですか。その時期にまったく仕事がないわけだから(笑い)。
その喫茶店で「番組でMCに話を振られたらスベるとか外すとかにビビらないで、何でもいいから声を出して答えよう!」と決めたんです。ここがずんの分岐点。「何も思い浮かばなくても黙るのはやめて、好きな食べ物でも叫べばいいよ」と。
そしたら年明けのライブでやすがMCに振られて15秒沈黙したあと「ホタテ!」って叫んでました。しゃべることがなくて、本当に食べ物を叫んだ(笑い)。MCがビックリしながらもどうにか盛り上げてくれて、僕らはそれからMCや共演者に甘えるというスタンスに変えました。そしたらその年から少しずつ仕事が増えてきました。やすはとんねるずさんの番組のコーナー「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」で空手の師範代で優勝したりと分岐点があったと思います。
「出演者全員を天野と思え!」
僕自身はいろんな先輩と出会えて、いろんなことを言ってもらえたのが大きかった。30代の頃に事務所の先輩の小堺一機さんや関根勤さん、同期だけどキャイ~ンと第一線で活躍してる人たちから「飯尾、面白い!」と言ってもらえてたから、「俺、やれるのかな」と自信になりました。
他の事務所では、出川哲朗さんは同じスワローズファンでよく神宮球場に連れていってくれて、帰りの食事で「天野(ひろゆき)と絡んでる時は最高に面白い!」と。僕は天野と22歳で出会ったから、番組で絡んでも緊張しないんです。出川さんは「他の先輩や後輩芸人を全員天野だと思って絡めば、絶対に仕事増えるから」と言い続けてくれました。
僕は他の芸人相手だと緊張しちゃうんで、それからはスタジオ入りするとMCの方を薄目で見て天野に見立てて絡みました。
若い頃はスベるのは絶対イヤだったけど、「内村プロデュース」の内村(光良)さんからは「スベってから考えろ」と教わりました。「とにかくやってから考える」と。スベったら「間が悪かったのか」とか反省できるけど、迷って何もやらなかったら「なんで何もやらなかったんだ」というところから反省が始まっちゃう。僕はスベっても「これも生きてる証しか」と思うようにしました。そう思わないと明日を迎えられないんです。
大川興業の大川豊さんからは「芸人はいろんなアドバイスをもらうけど、もらいすぎるとわけがわからなくなっちゃうから、面白いんだから芸風をあまりいじられない方がいいよ」と言われ、心に染みましたね。
さんまさんからは、番組中に話を振られた時に僕が「答えを考える時間ください」と言ったら「そんな時間ないねん」と突っ込まれましたけど、プライベートの時に「食っていけるかいけないかわからないけど、好きな仕事やってるだけで幸せやないか」と言ってもらえました。
今までアドバイスをくれた人の名前を挙げたらキリがないです。全部周りの方のおかげ。アドバイスを生かすまでメチャクチャ時間がかかりましたけど。3日連続の喫茶店でのネタ作りの最中にキャイ~ンの一本の電話にハッとして「俺たちヤバイ」と気づいた瞬間からも、相当、時間がかかりましたから。
これからは自分の番組も持ちたいし、後輩にも面白い芸人がたくさんいるので、生意気だけど番組に呼べるようになりたい。僕らがいろんな先輩から引っ張り上げられたように、今度は後輩を僕らがPRできたらいいなと。結果、僕らが後輩に助けてもらう絡みが多いと思いますけど(笑い)。
(聞き手=松野大介)
▽飯尾和樹(いいお・かずき)1968年12月、東京都出身。2000年にやすと「ずん」を結成。バラエティー番組出演多数、ドラマや映画でも活躍。日めくりカレンダー「まいにち、飯尾さん」発売中。