映画「GOLDFISH」主演・永瀬正敏が語る“老いの演技”の葛藤「走るのは正直きつい(笑)」
年を取ることでしか表現できないもの
――中年期にアイデンティティーが揺れ、心の葛藤が起きる「ミッドライフクライシス」は本作の大きなテーマですね。誰もが避けられない「老い」を永瀬さんはどう考えていますか。
永瀬 僕も体力的な衰えはあるし、走るのは正直きつい(笑)。でも、できなくなることがある一方で、年を取ることでしか表現できないものもある気がしていて……。職人の役をやるときはその道の方に教わることも多いのですが、そのままマネするだけでは、時間をかけて積み重ねたものにはかなわない。そこに演じ手としての経験と糧を合わせて、化学反応させていく作業は醍醐味であり、どの現場においても新鮮です。過去を否定すると生きづらいので、何歳になっても楽しみながら、たくさんの作品に出られたら本望ですね」
――今年でデビュー40周年、多くの映画やドラマに出演されてきましたが、ご自身で振り返っていかがですか。
永瀬 40年やっても『これでいいだろう』と満足することはありません。僕はいまだに自分の作品は客観的に見られなくて、つい自分のアラを探してしまいます。きっと相米監督のせいですね(苦笑)。
――それは意外です。相米慎二監督とはデビュー作「ションベン・ライダー」でご一緒されていますね。
永瀬 僕は相米監督にいつかOKと言わせるのが役者としての目標でした。でも、一度もOKをもらえないまま監督が旅立ってしまった。監督には「まぁ、こんなものだろう」と言われたままです。だから『次こそは』と思えるし、自分を育ててくれた映画の世界には、他とは違った特別な思いがあります」
■僕の原点はやはり映画
――コロナ禍では、過去の作品や映画をたくさん見ていたそうですね。今後について考えることもありましたか。
永瀬 はい。家から一歩も出なかったけれど映画を見て救われたし、友達もメッセージをくれたりして、すごく励まされました。イチにとっての原点が音楽であるように、僕の原点はやはり映画です。今後は志を共にする仲間とスクラムを組んで、新しい作品を作りたい。若い頃は一人で突き進むこともありましたが、みんなで一緒にやる楽しさを感じられるのは、積み重ねた40年のおかげです」