ぼんやりニッポンの財政
「持続不可能な財政」河村小百合、藤井亮二著
「失われた×年」が終わっても日本経済に明るい未来は見えない。なのに社会の空気はぼんやりのままだ。
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「持続不可能な財政」河村小百合、藤井亮二著
ほぼ10年続けたマイナス金利政策を解除した日銀。これから世界最悪の財政の立て直しが課題……といいながら、な~んにも議論が盛り上がらない。まったく太平楽なわがニッポン。そこに切り込むのは元日銀ウーマンと元参院予算委首席調査員のコンビだ。
内閣府が出した財政見通しも“根拠なきバラ色の10年”が描かれているのみ。なぜそんなことになるのか? それは日本に「独立した財政機関」がないためだ。このへんが同じ議院内閣制でもイギリスとは違うところ。内閣府は行政府の一部。つまり自分で自分の評価をしているようなものなので、上記の財政見通しも政府の楽観論しか反映していないというわけだ。
では外国から見た日本経済はどうか。昨年1月にOECDが発表した見通しでは、日本の基礎的財政収支は2026年以降は悪化の一途をたどる。そのために考えられる財政再建の具体策も「25年以降は消費税率を毎年1%ずつ上げて20%になるまで継続する」とか「年金の受給開始年齢を2031年から15年かけて65歳から70歳まで引き上げる」といったハードなものばかり。これらは日本国内では議論さえされていない案なのだ。崖っぷちにいながらぼんやりするままのニッポン。大丈夫か? (講談社 1210円)
「まさかの税金」三木義一著
「まさかの税金」三木義一著
元政府税制調査会の専門委員として国税通則法の改正を担当した著者。本書は東京新聞に連載中のコラムをもとにした一般読者向けの税の豆知識集。といっても単なる雑学本ではない。
著者は日本国民は「税制難民」だという。国民の大半を占める会社員などは年末調整というかたちで税金の申告をする権利を奪われている。実はこれ、戦後GHQが申告納税制度に切り替えるよう命じたのに対し、大蔵省(当時)が税務署の権限縮小を嫌っていきなり導入した制度だからだ。
しかしこれは国民が身をもって税制を知ることがないように仕組んだ「愚民化政策」で、企業の交際費課税も冗費の抑制に見えるものの、実は原発導入のための財源確保を目的にした制度だ。著者は税制は自然原理とは違って「不動の原理」がなく、「施政者たちによってすごくゆがめられたものになりがち」という。要は政治のよしあしで変わるのが税金なのだ。
昨年の総選挙で与党が過半数割れを起こしたおかげでやっと「税制についても基本的なことが議論され始めたのは良いこと」と著者。まさにその通りだ。 (筑摩書房 1012円)
「はじめての日本国債」服部孝洋著
「はじめての日本国債」服部孝洋著
財テクをしている人なら「日本国債? そんなの買っちゃだめ」といわれた経験があるだろう。
債務残高山積みのニッポンの信用格付けは低く、しかもインフレ率が個人向け国債の利回りを上回っているから5年固定の国債などは無意味だ。
しかし野村証券、財務省を経て東大の特任准教授になった著者は、国債を知ることで日本経済の仕組みがわかる。資産運用を考えている人なら最低限、本書の知識は心得ておくべきという。国債は国の借金。ゆえにそれがわかれば経済の現況もわかるのだ。基礎知識をわかりやすく解説してくれる点で「いまさら聞けない」本にあたるが、虎の子の資産をなんとか運用したいと考える人には必須の知識集ともいえるだろう。
たとえば近ごろ人気のデリバティブ。国債や株式などから派生した金融商品で、国債先物や先渡契約、スワップ、オプションなどがあるが、仕組商品と呼ばれるものの中に組み込まれているため、素人の投資家が想定しなかったリスクなどでマイナスのイメージも強い。奇をてらわず地道に勉強する人には最適の入門編だろう。 (集英社 1100円)