映画「バービー」が証明するエンタメとしての映画の変化…大ヒットの必然を識者が分析
貧困に苦しむ情緒不安定な男が、狂気のピカレスク・ヒーローへと変貌していく「ジョーカー」(19年)がベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞し、今年は生活に困窮するアメリカのアジア系移民家族が、マルチバースを旅しながら家族の絆を取り戻す「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」(22年)がアカデミー賞の作品をはじめ7部門で受賞するなど、かつてはエンタメの枠でくくられたヒーロー物やSFが、社会的なテーマを結び付けることで、人間ドラマとしても評価されるようになった。単なる人形の冒険ファンタジーではない「バービー」もその流れの中で生まれた一本と言えるのだ。
純粋な冒険活劇「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」(23年)がいまひとつ興行的に振るわないのを見ても、エンタメとしての映画が変化していることを「バービー」の大ヒットは証明している。今回のファンアート批判で、「オッペンハイマー」に絡めてアメリカ国民の原爆投下に対する捉え方が、日本人とかけ離れていることが再認識された格好だが、その責を「バービー」にも背負わせる風潮は極端な気がする。これは現代社会を反映した冒険ファンタジーで、批判は作品を見てからやった方がいいと思うのだが。
(金澤誠/映画ライター)