山田太一さん「脚本の神様」の裏話…なぜ生々しいセリフを次々と生み出せたのか
うんうんと思わずうなずいてしまう。あらゆる時代の、自分に自信が持てない若い男に通じるセリフだ。元テレビ誌編集長も「山田さんは“神様”でしたからね」と、こう明かす。
「1990年代の初め頃だったと思いますが、当時の番宣は制作発表の後に演者さん、プロデューサーや脚本家の方々などと記者が飲みながら直接話ができる懇親会をやっていたんです。私も記者としてTBSのドラマの懇親会に出て、その席で山田さんにお会いして、興奮気味に山田さんの書くセリフについて語ったら、穏やかに笑っておられました。“神様”と話ができたような気分だったことだけは覚えていますが、肝心の話の内容はすっかり忘れているのが情けないです」と苦笑する。
■セリフのひとつ、ひとつを大事にしている
スポーツ紙芸能デスクは、2000年放送のテレビ東京系スペシャルドラマ、中村雅俊(72)主演の「小さな駅で降りる」の“記者懇親会”で山田氏と話したことをよく覚えているという。
「そのドラマの中に『うざい』というセリフが出てくるんですが、今でこそ普通に使われていますが、当時は今ほど浸透していなかった。で、山田さんに聞いたんです。どうしてその言葉を使ったんですかって。そうしたら、よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりの笑みを浮かべて、『うざいというのは今日的な言葉で……』と、若い記者の質問にも丁寧に答えてくれたんです。周りの記者たちはポカーンとした顔をしていましたけど、山田さんはストーリーだけじゃなくて、その時代、時代の言葉に敏感で、セリフのひとつ、ひとつを大事にしているんだなと感じ入りました」
だからこそ《人間の心を描き出す力があった》のだろう。