著者のコラム一覧
松尾潔音楽プロデューサー

1968年、福岡県出身。早稲田大学卒。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。プロデューサー、ソングライターとして、平井堅、CHEMISTRY、SMAP、JUJUらを手がける。EXILE「Ti Amo」(作詞・作曲)で第50回日本レコード大賞「大賞」を受賞。2022年12月、「帰郷」(天童よしみ)で第55回日本作詩大賞受賞。

格闘技界と芸能界を自在に行き来するノンフィクションの賞獲り男として、細田昌志の快進撃は当分続くのではないか。

公開日: 更新日:

 最後に余談を。

 1994年、ずっと尊敬するスパイク・リー監督にニューヨーク・ブルックリンのオフィスでインタビューしたときの話。お気に入りの日本の映画監督として、彼は黒澤明、小津安二郎、勅使河原宏の3人の名を挙げた。では映画人以外で知っている日本人は?との問いには「オウ。サダハル・オウ」と即答。はて。ぼくの心には疑問の種が残った。「知っている日本人」として迷いなく王貞治の名を挙げたリー監督は、はたして彼の出自までは知っているのだろうか。

 王が日本野球界の至宝であることは論を俟たない。だが台湾籍の彼は、早稲田実業高校時代にエース投手として甲子園で大活躍したものの、国体には当時の国籍規定で試合出場できず、入場行進にだけこっそり加わった。ファンにとってはあまりに有名な逸話であろう。幼いころ伝記でこの事実を知って衝撃を受け、憤りをおぼえた元野球少年の自分は、ほかの監督ならともかく、アフリカ系アメリカ人に対する人種差別問題を作品の核に据えつづけてきたスパイク・リーには、王貞治の出自を正確に知ってほしいと思った。

 ぼくの説明を聞いたリー監督は「オウは日本人じゃない? チャイニーズだって?」と驚きを隠さなかったが、すぐに「でも日本で生まれ育ったんだろ?」と問いただしてきた。そうですよとぼくが答えると、ポーカーフェイスを取りもどして「王が日本人じゃないとしたら、国民的英雄をひとり失っちゃうようなもんじゃないのか?」と逆質問してきたのだった。

力道山未亡人』を読んでよみがえった記憶である。

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    無教養キムタクまたも露呈…ラジオで「故・西田敏行さんは虹の橋を渡った」と発言し物議

  2. 2

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  3. 3

    吉川ひなのだけじゃない! カネ、洗脳…芸能界“毒親”伝説

  4. 4

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  5. 5

    竹内結子さん急死 ロケ現場で訃報を聞いたキムタクの慟哭

  1. 6

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 7

    木村拓哉"失言3連発"で「地上波から消滅」危機…スポンサーがヒヤヒヤする危なっかしい言動

  3. 8

    Rソックス3A上沢直之に巨人が食いつく…本人はメジャー挑戦続行を明言せず

  4. 9

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 10

    立花孝志氏『家から出てこいよ』演説にソックリと指摘…大阪市長時代の橋下徹氏「TM演説」の中身と顛末