菊之助の“御曹司以外”抜擢、右近の「書き出し」…10月歌舞伎座は音羽屋が奮闘
昼の部は、それぞれタイプが違うが、いかにも歌舞伎らしい演目が揃ったが、夜の部は一転して、新派『婦系図』と新作『源氏物語』。玉三郎と仁左衛門、そして染五郎が出るので早い時期に完売となり、ロビーも混んでいた。
泉鏡花の『婦系図』を、仁左衛門と玉三郎が共演するのは初めてというのは意外だった。この半世紀にわたる名コンビも、まだまだ2人でやっていないものがあるのだ。
玉三郎はコロナ前までは、若手の女形を共演しながら鍛えて、「玉三郎スクール」とでも呼べることをしていたが、そのスクールは女子校だったのが男女共学になり、先月に続いて染五郎と共演している。
玉三郎が選んだのは『源氏物語』で、染五郎の光源氏を相手に、六条の御息所で出て、さらに舞台全体の監修もつとめる。シンプルだが手の込んだ舞台装置も照明も、いかにも玉三郎ワールドで、まわり舞台の使い方もいい。染五郎、葵の上の時蔵も健闘し、美しい。「見る」だけなら絶品の舞台となった。
だが、肝心の台本がよくない。昔の昼メロの三角関係みたいな痴話ゲンカにした解釈もどうかと思うが、状況も心情もすべてをセリフで説明して、情緒も何もない。「源氏物語」のファンは怒るのではないだろうか。
(作家・中川右介)