菊之助の“御曹司以外”抜擢、右近の「書き出し」…10月歌舞伎座は音羽屋が奮闘
10月の歌舞伎座の昼の部は、音羽屋一門を中心にした座組。
まずは菊之助の初役シリーズで『平家女護島/俊寛』。菊之助自身が初役であるだけでなく、父・菊五郎も演じていない役だ。来年の菊五郎襲名を前にして、菊之助は芸域と相手役の拡大戦略をとっているが、ついに、岳父・吉右衛門の当たり役・俊寛に挑んだ。菊之助は吉右衛門の芸をなぞらない。絶叫しない俊寛を提示する。
脇を固めるのは播磨屋一門の歌六、又五郎、吉之丞。最近の菊之助のもうひとつの戦略が、いわゆる御曹司以外からの抜擢で、今回は千鳥に上村吉弥の弟子、上村吉太朗を起用して、驚かせた。吉太朗は重圧があるだろうが、軽やかに好演。
次の『音菊曽我彩』は音羽屋色が強い。右近と眞秀が曽我兄弟の「曽我の対面」。右近もついに歌舞伎座で「書き出し」のポジションを得るようになってきた。華やかな舞台で様式美の極みで、菊五郎がその声のよさで圧倒的な存在感を放つ。
続いて、中村獅童が加わって、尾上松緑、中村時蔵らとの『権三と助十』。岡本綺堂による人情噺ミステリー。獅童が出ると爆笑コメディーになりがちだが、若い時蔵がうまくコントロールしていた。