「時代とFUCKした男」加納典明(5)ムツゴロウさん編スタート…なぜ俺は動物王国の住人になったのか
亡くなる3日前に…
増田「もちろんです。マネジャーさんとも話していましたし、畑さん本人とも電話で話してました」
加納「マネジャーは石川?」
増田「いや。本多さんです。それで東京で会っていよいよ書き始めるぞというときにコロナ禍が始まってしまって。畑さんは心臓を悪くしていたので、感染して呼吸器やられたら危ないから『コロナが終わるまで、もう東京に出られない』と。それで『僕が中標津行きます』って言ってもだめなんです。怖いんですね、ムツ牧場にコロナを持ち込まれるのが。マネジャーさんにはっきり『畑が怖がるんで』と言われて」
加納「コロナがなければ……ですね」
増田「コロナが明けてから『よし、やるぞ』って、資料のコピーを一緒にしてどっさり送ったんです。ところがその5日後に亡くなってしまって。名古屋から北海道は手紙が2日で着くから亡くなる3日前にムツさんは手紙を開けているはずです」
加納「そんなニアミスだったんだ」
増田「おそらく畑さんの机には僕の手紙が開かれたままだったと思います」
加納「それくらい追っかけてたから僕とムツさんの関係を詳しく知っていたと」
増田「小学生の頃から知ってました。加納さんを知ったのは、だから女優たちのグラビア写真を撮ってる写真家としてではなくて、ムツさんのところに住んでいる人としてだった。僕は畑さんにも興味を持ってましたが、同じくらい加納さんにも興味を持っていたんです」
加納「そいつは嬉しいね」
(第6回につづく=火・木曜掲載)
▽かのう・てんめい:1942年、愛知県生まれ。19歳で上京し、広告写真家・杵島隆氏に師事する。その後、フリーの写真家として広告を中心に活躍。69年に開催した個展「FUCK」で一躍脚光を浴びる。グラビア撮影では過激ヌードの巨匠として名を馳せる一方、タレント活動やムツゴロウ王国への移住など写真家の枠を超えたパフォーマンスでも話題に。日宣美賞、APA賞、朝日広告賞、毎日広告賞など受賞多数。
▽ますだ・としなり:1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一ノンフィクション賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が好評発売中。