『わたのまち、応答セヨ』100分の1まで衰退した三河木綿の復活プロジェクトは「逆境」と「奇跡」の物語だった

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一人の職人との出会いが映画プロジェクト好転のきっかけに

 こうして綿織の文化が芽生え、蒲郡の製品は「三河木綿」「三河縞」と呼ばれるブランドとして人気を博した。戦後の好景気の時期、蒲郡には「ガチャ万」という言葉があった。機織りの機械を「ガチャン」と動かせば「万」のカネが転がり込んでくるという意味である。

 ところが今から25年前の2000年になり、景気は一気に下降した。中国製の安価な製品が大量に出回り、三河木綿を市場から駆逐してしまったのだ。中国だけでなくタイ、ベトナム、インドネシアでも安価な繊維が作られるようになった。その影響で市内の業者は次々と廃業、自ら命を絶つ悲劇まで起きた。その結果、かつて市内に2000件あった繊維業者は100分の1まで減少した。激減である。まさに「築城三年、落城一日」。経済というものの冷酷さを思い知らされる現実だ。

 2024年、日本テレビで「電波少年」シリーズなどを手がけたプロデューサーの土屋敏男と岩間玄監督が蒲郡市に呼ばれた。「街の繊維産業に光を当てる映画を作ってほしい」との要請を受けたのだ。岩間は2020 年に「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家 森山大道」でデビューした実力派である。ナレーションは女優の岸井ゆきのが担当した。

 制作発表会見で土屋は「映画を見てくださる方に代金を払ってもらう趣旨なのか、それともあくまでもプロモーション、PRするために作るのか?」との質問を受ける。土屋は「うーん、真ん中くらいだね」と苦笑しつつも「未来への希望の光を描きたい」と意欲を語る。この「希望の光」という語に導かれるように、劇場公開を目的とする本作のプロジェクトが始まった。ところが前述のとおり地元の古い業者たちが冷たい。およそ協力的とは言えないのだ。

 こうした逆風のなか、岩間は一人の職人と出会う。鈴木敏泰。20歳だった1964年に蒲郡に移り住んだテキスタイルデザイナーだ。鈴木は80歳を超えた今もこの地で妻と共に綿花を育て、三河木綿を織り続けている。岩間が鈴木のもとに足しげく通い、信頼を取りつけたことで映画プロジェクトは好転のきっかけをつかむのだった……。

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