精神的につらいと「がん死リスクが増加する」は本当か?
落ち込みや不安など、精神的な苦痛は体の健康面にも悪影響を及ぼすといわれており、「心臓病や脳卒中の発症リスクが増加する」という研究が過去に報告されているようです。また、精神的な苦痛は免疫系にも影響を及ぼし、体の抵抗力を弱めるとも指摘されています。免疫機能が低下すると風邪などの感染症を発症しやすくなったり、理論上はがんの発症リスクが高まることも考えられます。
そんな中「英国医師会誌電子版」(2017年1月25日付)に、精神的な苦痛とがんによる死亡リスクを検討した研究論文が掲載されました。
この研究は、英国で行われた16件の前向き観察研究から、16万3363人分の個人データを解析し、精神的苦痛を点数化した指標(0~12点で評価、点数が高いほど精神的苦痛が大きい)と、がんによる死亡との関連を調査したものです。
なお、結果に影響を与えうる「年齢」「性別」「喫煙」などの要素で統計的に補正し解析しています。
研究の結果、精神的苦痛の小さい人たち(0~6点)に比べて、精神的苦痛の大きい人(7~12点)では、あらゆるがんによる死亡が1.32倍、統計学的にも有意に多いという結果でした。がんの種類別の解析では、大腸がんによる死亡が1.84倍、前立腺がんによる死亡が2.42倍、すい臓がんによる死亡が2.76倍、食道がんによる死亡が2.59倍、血液のがんである白血病による死亡が2.59倍、統計学的にも有意に多くなっています。
この結果はあくまで観察的な研究データに基づいているので、精神的な苦痛とがん死亡の直接的な因果関係を決定づけるものではありません。
ただ、健康面に及ぼす精神的苦痛の影響は軽視できないように思います。