替えがきかない命を紙切れ一枚で決めてしまっていいものだろうか…
それまではほとんど実家には帰ってこなかった息子と娘でしたが、毎週日曜日には3人で時間を決めて、Kさんに会いに行きます。Kさんには構音障害があり、十分な会話はできませんが、それでも笑顔のKさんを見てみんなホッとしました。
もう何年も家族4人が揃うことなんてなかったのに、こうして定期的にみんなが集まる。Kさんのいる施設が家族で安心できる、ホッとできる場所になっていることにSさんは気づきました。
「妻の笑顔で家族がこんなに幸せな時間を持てて、家族団らんができている。あの時、生かせてもらって良かった」
Kさんの意識がまだ戻らなかった頃、Sさんは友人から「終末期の治療についてどうしたいか。本人が元気な時に自身の希望を書いておく事前指示書がある」ことを聞きました。インターネットで調べてみると、確かに終末期医療に関する事前指示書というものがあります。
あらためてその説明を目にしながら、Sさんは「事前指示書では、書いた内容はいつでも修正・撤回できるとあるが、きっと『最期まで治療してほしい』と書く人は少ないのではないだろうか」と思いました。