替えがきかない命を紙切れ一枚で決めてしまっていいものだろうか…
■まずは「事前指示書」があるということを知り、自分の場合を考える
こうも考えました。
「世界には70億の人がいるが、同じ命は2つとない。たったひとつの命、神様がくれた命、私たち家族には替えがきかないかけがえのない命……。そんな命を紙切れ一枚で、自分で決めてしまっていいものだろうか? これも超高齢社会の産物なのかもしれないな」
ただ、そう思いながらも自分自身の場合を考えると、Sさんは「矛盾していることは分かっている。でも、やはり子供たちには迷惑をかけたくない。自分の事前指示書には『人工呼吸器は必要ない』と書いておこう」と言われます。
高齢者の増加に伴って死亡者数が急増し、人口が少なくなっていく「多死社会」といわれるいまですが、意識がないまま長く生かされることを望む人はほとんどいないでしょう。しかし、Kさんのように人工呼吸器によって助けられた命が、家族に幸せな時間をもたらすこともあるのです。
その人その人によって考え方は異なります。ただ、いまは「終末期の治療をどうしたいか」について、自身の希望を記す事前指示書というものがある。それを知った上で、自分自身の場合を考えてみることは大切なのではないかと思います。
最期のあり方について、医療・介護者と話し合いを繰り返す「アドバンス・ケア・プランニング」(AC)という取り組みもあります。これについては、またあらためてお話しします。