「生かす医療」を切り替えるターニングポイントがある
「医学教育を受けた医者はみな『救命・根治・延命』を第一に考えます。私が外科医をしていた時も、この3つを必要とする患者さんはたくさんいました。しかし医療に求められているのは、それだけではない。穏やかな最期を迎えるための『死なせる医療』もある。在宅医療に関わるようになって初めて、私はそれを知りました。こんな話をすると、患者も医者もみな『死は敗北』と嫌がりますが、人生の最後の医療は生かすためのものとは限らないのです」
人間誰しも、いずれは死を迎える。できれば幸せな最期を迎えたいものだが、それは「生かすための医療」が前提でないかもしれない。
97歳で独居の男性患者がいた。ひどい認知症で会話もままならない。それでも小堀さんは、ある種の友情が芽生えていると感じられた。ひっくり返した植木鉢を椅子代わりにして玄関先で小堀さんの来訪を待ち、会えば釣りの話をした。そんな付き合いが3年6カ月続いたという。
「毎日の生活は充足しているように見えましたが、ある冬の朝に一変しました。看護師が訪問すると布団を掛けずに寝ていて体が冷たい。すぐに遠方に住む息子に連絡、救急搬送後に入院加療となったのです」