他人を家に入れたくない独居老人が在宅に結びついたのは…
その方は都内の繁華街の一角に立つ一軒家で長年ひとり暮らしをしていらっしゃる女性です。ある事情で、旦那さんとお子さんとはずっと別居暮らし。気が付けば高齢期を迎え、次第に歩行がままならず、移動も不自由になっていました。
地域包括支援センターの人が時折自宅を訪問して、生活の様子を伺いながら、「訪問診療は必要ですか?」とか「ヘルパーさんを入れましょうか?」などと声を掛けるのですが、女性はどうしても他人を信用できない、自宅には入れたくないの一点張り。頑として介護保険申請もせず、ちょっとした買い物や用事は昔馴染みのご近所の方にお金を払いお願いする、という生活を送っていました。
そんな夏のある日のことです。自宅のクーラーが故障し、女性は熱中症の脱水症状で家で倒れ、動けない事態に。異変を感じた近所の人から連絡を受けた地域包括支援センターの人が駆けつけ、救急車を呼びました。しかし、本人は搬送拒否。せっかく呼んだ救急隊も帰ってもらうことになりました。
その時はクーラーを修理し自宅で体調が回復するのを待ったのですが、それによって私たち在宅医療チームが介入するタイミングが訪れました。というのも、女性は病院の受診を拒否。しかし高齢で熱中症ですから放っておくわけにはいかない。そこで自宅にセンターの方が伺うことになり、私たちもそれに同行したのです。
ただしこの時点では具体的な診療をするわけではありません。センターの方と一緒に密に出入りしながら、まずは私たちの存在に慣れてもらう。関係性ができた時点で、改めて介護保険申請を勧め、最終的には介護保険に入ってもらい、ヘルパーさんと交代しながら生活を支えていくようになりました。