著者のコラム一覧
名郷直樹「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

コレラをめぐる「病態生理」と「疫学的事実」の対立…コッホとペッテンコーフェル

公開日: 更新日:

 このコレラ菌の発見に対し、ペッテンコーフェルがとった対応が「培養されたコレラ菌を飲む」という自身の体を用いた人体実験であったのだ。彼は土壌汚染が蔓延する地域にもコレラを発症する人としない人がいる事実を見て、コレラ菌だけがコレラの原因とは考えていなかった。自分はコレラを発症しないという自信があったのかもしれない。

 事実、ペッテンコーフェルがコレラ菌を飲んでも軽い下痢が起こるだけで、毎日大学へ歩いて通っていたという。さらに助手のエンメリッヒが同様の人体実験を彼に知らせず行っていたのだが、こちらも軽い下痢を起こすのみであった。この対決の結果は、ペッテンコーフェルの便からコレラ菌が培養され、彼の下痢の原因はコレラ菌によるもので、コッホのコレラ菌原因説が確かめられた事件として語り継がれている。

 しかし、この事件はそう単純ではない。日常ではありえない量の培養コレラ菌を飲んだ場合でさえ軽い下痢を起こすだけで、下痢が止まらず、脱水症で死に至る病としてのコレラは発症しなかったということもできるのではないか。少数の菌が入ったくらいでは何も起きない可能性も十分考えられただろう。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ吉井監督が佐々木朗希、ローテ再編構想を語る「今となっては彼に思うところはないけども…」

  2. 2

    20代女子の「ホテル暮らし」1年間の支出報告…賃貸の家賃と比較してどうなった?

  3. 3

    【独自】フジテレビ“セクハラ横行”のヤバイ実態が社内調査で判明…「性的関係迫る」16%

  4. 4

    「フジ日枝案件」と物議、小池都知事肝いりの巨大噴水が“汚水”散布危機…大腸菌数が基準の最大27倍!

  5. 5

    “ホテル暮らし歴半年”20代女子はどう断捨離した? 家財道具はスーツケース2個分

  1. 6

    「ホテルで1人暮らし」意外なルールとトラブル 部屋に彼氏が遊びに来てもOKなの?

  2. 7

    TKO木下隆行が性加害を正式謝罪も…“ペットボトルキャラで復活”を後押ししてきたテレビ局の異常

  3. 8

    「高額療養費」負担引き上げ、患者の“治療諦め”で医療費2270億円削減…厚労省のトンデモ試算にSNS大炎上

  4. 9

    フジテレビに「女優を預けられない」大手プロが出演拒否…中居正広の女性トラブルで“蜜月関係”終わりの動き

  5. 10

    松たか子と"18歳差共演"SixTONES松村北斗の評価爆騰がり 映画『ファーストキス 1ST KISS』興収14億円予想のヒット