“女子御三家”雙葉学園の幼稚園教育が男児にもプラスになる理由
都内私立「女子御三家」といえば、桜蔭、女子学院、雙葉の3校。いずれも大学受験で高い実績を上げている名門だが、雙葉だけ、他の2校と違っている点がある。桜蔭と女子学院が中高一貫なのに対し、雙葉は幼稚園から高校までの一貫なのだ。
JR四ツ谷駅から徒歩2分と絶好の場所にあり、原則としてエスカレーター式に上級の学校に上がれるので、雙葉小学校や雙葉小学校附属幼稚園(以下「雙葉幼稚園」、2年保育)の人気は非常に高い。ただし、幼稚園の場合は全員が小学校に内部進学できるわけではない。小学校から上は完全女子校だが、幼稚園は男子も受け入れているからだ。逆に言えば、男子の園児は小学校に上がる際に、他の学校を選ばなければならない。
「女子入園者のほうが断然、メリットが大きいわけで、当然ながら入試の難易度はだいぶ違う。女子にとって、都内幼稚園では最難関のひとつといってもいいでしょう」(学習塾幹部)
一学年の園児数は女子40人、男子10人。内部進学のない男子の入園料(2021年度)は14万円。女子の22万円より低く設定されている。だからといって、男子園児のレベルが低いわけではない。「男もかなり優秀なのが集まっていたと思う」と振り返るのは、1960年代に入園した60代の会社経営者だ。
「僕らの頃は男がもっと少なくて、女子の1割強程度だった。そうした中から、1部上場企業の役員もいっぱい出ているし、学者になっているのも多い」
■OBに仏文学者で元東大総長の蓮實重彦氏も
このOBは小学校受験をして、東京学芸大附属世田谷に進んだ。20歳以上も離れた男子の先輩には、仏文学者で東大総長を務めた蓮實重彦氏もいる。蓮實氏は卒園後、学習院初等科に入学。学習院高校から東大に進んだ。それから時代はだいぶ経つが、現在も雙葉幼稚園から有名小学校に進学する男子園児が目立つ。
「小学校受験を見据えて、息子を雙葉幼稚園に入れたいという父兄も多い。お受験に特化した幼稚園ではありませんが、男児にはここでの体験がかなりプラスになるようです」(学習塾幹部)
フランスのサンモール修道会(現「幼きイエス会」)によって設立された雙葉は、「カトリック精神に基づく全人教育」を掲げている。それは小学校や中高だけでなく、幼稚園でも同様だ。
「自由活動と一斉活動を組み合わせながら、祈る心を養って、人間形成の土台づくりをしていくのが幼稚園の目的です」と説明する学校法人雙葉学園の関係者は、こう続ける。
「園生活でルールを守ることも学んでいくのですが、といって、何かを強いるような指導はしません。遊びの部分を非常に大切にしている。園児同士が手を取り合い、みんなで物事に熱中する喜びを感じてもらう。和気あいあいとした雰囲気の中で、他者へのいたわりの気持ちも生まれてくるのです」
ただ、少数派の男子園児にとっては、必ずしも快適な園生活が送れるとは限らないらしい。緊張する場面も多かったと、前出の60代OBは述懐する。
「どちらかというと、僕なんかは女の子たちに囲まれて萎縮していましたね。中には、暴れん坊の男子もいましたが、いじめられたと先生に告げ口されたりして、次第におとなしくなってしまった。伸び伸びと過ごした記憶はほとんどありません」
一方、女子園児の多くは園生活を思いきり謳歌しているようだ。自身の一人娘も雙葉幼稚園に入園させた30代のOGは次のように話す。
「高校までこのまま、雙葉で過ごすことができるという安心感がどこかにあったような気がします。毎日、小中高のお姉さんたちを見ているのですから、自然と雙葉生という自覚も芽生えてくる。気持ちの余裕と、雙葉生のプライドが相まって、とても楽しい園生活が送れた気がします」
美智子上皇后も卒園生
雙葉全体ではなく、雙葉幼稚園という枠に絞って考えた時、そのプライドを裏づける象徴的な存在が浮かび上がってくる。卒園生の一人、美智子上皇后である。
日清製粉グループで社長や会長を歴任した正田英三郎氏の長女として誕生した上皇后は1939年、雙葉幼稚園に入園。41年には雙葉小学校に進学しているが、圧倒的に幼稚園の印象のほうが強い。雙葉小学校4年の時に神奈川県、その後、群馬県や長野県に疎開。いくつもの小学校を転々として、ずっと雙葉小学校に在学していたわけではないからだ。終戦後、雙葉に復学したが、中学は自宅から通いやすい聖心女子学院中等科に進んだ。
「母が美智子さまの大ファンで、是が非でも雙葉幼稚園に入れたくて仕方がなかったようです。美智子さまのようなおしとやかな女性に育ってほしいという思いだったのでしょうが、そんな期待とは裏腹に、がさつな人間になってしまいましたが……」
こう言って、前出の30代OGは笑う。長女(孫)が合格した時も、母親は飛び上がらんばかりに喜んだという。
根強い人気を持つ雙葉幼稚園の入試(女子)の倍率は例年、6~7倍ほど。かなりの狭き門だが、合格するコツはあるのだろうか。
「かつては、親や姉妹に雙葉出身者がいると有利だと言われていましたが、近年はあまり関係なくなっているようです」と話すのは前出の学習塾幹部。大切になってくるのは、入園願書とともに出す提出書類だという。
「雙葉を選んだ理由、家族の教育方針、幼稚園側に伝えておきたい点の3項目について記入する欄があります。そこでは、考えや事実をより具体的に書くべきでしょう。幼稚園側はそれらを基に事前に線引きをするので、不利にならないように気をつけてください」
一方、学校法人関係者は「以前は提出書類を重視していたのは事実だが、最近はだいぶ変わってきている」と話す。数年前までは、提出書類の家族の欄に両親の勤務先と最終学歴を書かせていたが、今はそうした記述をする必要がなくなっている。
「学園としては、先入観を持つのは良くないという考えに傾いている。事前の提出書類は参考程度にして、なるべく入試だけで判断しようという方針なのです」(学校法人関係者)
■入試は「集団テスト」「親子テスト」と面接
入試は、子ども20~30人のグループで遊ぶ「集団テスト」、親子で遊ぶ「親子テスト」、そして2段階で行われる「面接テスト」。
「もっとも合否を左右するのが親子3人で臨む面接テストです。第1面接も第2面接もわずか3分間で行われるのですが、子どもへの指示行動があったりと、盛りだくさんの内容で、差がつきやすい。ここがポイントだと思って、事前準備を怠らないようにしたいものです」(学習塾幹部)
合格後にかかる費用も留意しておく必要がある。前述の入園料に加え、保育料、施設維持費、後援会費がかかり、初年度に払い込む額(女子、21年度)は計93万8800円。都内私立幼稚園の平均52万1016円(東京都調べ)と比べると、かなり高いが、判断は難しいところ。もっとも高額の青山学院幼稚園は160万5000円だ。
「ブランド幼稚園は軒並み、100万円を超えているので、雙葉幼稚園の額は比較的、良心的といえるのではないか」と、幼稚園業界に精通する教材作成プロダクションのスタッフは話す。
ただ、名門の幼稚園に入ったからと手放しで喜ぶのは禁物。「小中高と内部進学していくうちに、"できる子"と"できない子"に大きく二分される」(前出OG)というだけに、なかなか気が抜けないようだ。