「南海トラフ」地震後の復興でカネを出すのは米国か、中国か…養老孟司×名越康文が考える
日本は明治維新、敗戦、そして近い将来に訪れる「南海トラフ地震」と3度目の大きな転換期を目前に今は備えているときだ。日本の未来を憂う心配性のドクター二人、解剖学者の養老孟司さんと精神科医の名越康文さんが日本、そして日本人を診察しアドバイスを処方した書籍「二ホンという病」(発行・日刊現代/発売・講談社)から、気になる問題を一部抜粋し紹介する。
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気象庁は南海トラフでの巨大地震発生の可能性を評価する検討会を実施。5月1日から今月5日に想定震源域とその周辺にマグニチュード3.5以上の地震が4回発生したことを報告したが、「特に目立った地震活動ではない」と評価している。
だが、今後30年以内での発生確率は70%から80%とされ、必ず起こる地震だ。かつて、地震学の権威、尾池和夫元京大総長が著書「2038年南海トラフの巨大地震」を出している。予測研究によってその前後で、巨大地震が起こる可能性を秘めているからだという。ドクター2人は南海トラフの巨大地震後の復興やお金の問題を懸念する。
養老 実際、2038年に何が起こるか分かりませんけどもね、南海トラフ地震はかなり確実に来るでしょう。その後、どうなるかですよ。地震の規模にもよるんでしょうけども、一番問題なのは復興のカネをだれが出すか、どこから調達するかです。
名越 世界中にカネがあると言ったら、アメリカと中国しかありません。
養老 背に腹は代えられないから、目先のカネにつられる可能性は十分ありますよ。その時に将来のビジョンができていないと、大変なことになりますよ。カネで返せるか。新幹線に投資するような形になりかねない。元の木阿弥になってしまいますよ。
名越 日本は日露戦争の借金を戦後まで払っていたという話を聞いたことがありますけどね。イギリスにね。そこをもう少し共有したいですよね。日露戦争の時に国家予算の数年分とかという戦費をイギリスなどの巨大資本から借りているんですよ。ずっと返し続けてきたのは事実なんで、それを大河ドラマなんかにしてやってほしい気がするんです。そうした事実を国民に知ってもらえば、南海トラフの復興が考えやすくなりますよ。
養老 こういう災害は規模によって何が起こるか分からないから最悪のシナリオを考えるしかないですね。南海トラフだけでなく、東南海に首都直下型地震が連動する可能性もある。それから火山活動の活発化という事態も考えておかなければいけません。噴火もね。全部が一緒に来るということは、まあないと思うんですけど、東南海が連動してくることは間違いない。1年ぐらいのずれがないとは言えないんですけど。
どうせ、その頃も今みたいな(日本が衰退局面にある)状況になっているはずですから、これを元に戻すっていう時に、この国は何かあると以前の日常に戻すという傾向があるんだけども、それを上手にやめられるかどうかがポイントです。
具体的には、地域的に小さな単位で自給していくことができるかどうか。(東京一極集中から脱却して)そういう小さな社会構造に国をつくり直せるかどうかが重要になります。災害があって、いろんな意味で不幸が起こったあとに、いったいどういう社会をつくるのかがいちばん大事なポイントだということです。
小さな単位で地域的にやっていけるように、当然、災害のあったところとなかったところで、ある種の不公平が生じてきます。それはしょうがないとして、いちばんの問題は東京ですね。大都会の復興、再建をどういう形で落ち着かせたらいいのか。
これは我々が考えることではなくて、実際には官庁なりシンクタンクが、今の人口、多少減るかもしれませんけど、これをどう分散して、どう移したらいいか。今から手を打っていくべきでしょう。それが進めば、環境問題も一気に片付く。そういう未来像を今から考えていくべきでしょうね。