学生時代、神保町「さぼうる」で渡辺えり風のマダムにかけられたハッパの中身
「若いうちは語り合わなきゃダメよ! でも…」
昔と変わったことはあるかと、現在の店長に尋ねると、「お店は昔から何も変わっていません。ただ若いお客さまが、皆さん静かになったような気がします」。店内は確かに静かだ。ほかに変わったことといえば、客の若者たちのほとんどが本ではなく、スマホを見ていることだろう。
すずらん通りの裏には狭い路地があり、夜になると酒を出す古い喫茶店が何軒かある。昭和30年創業の「さぼうる」もそのひとつ。アタシが学生だった当時は、もっぱら飲み屋として通っていた。山小屋風の店内はいつも老若男女で賑わい、蝶ネクタイにベスト姿の先代店長が手際よく笑顔で客をさばいていた。夜になると渡辺えり風のダイナミックなマダムが登場し、それぞれの席を回って接客していたことを今でも覚えている。
友人と酒を飲みながら話していると、酔うほどに青くさい文学論や映画論が素晴らしい内容に思えてきて、恥ずかしい話だが、その会話を録音し出版社に持ち込もうと話していた。
すると横に座ったマダムが「若いうちは喧嘩するくらい語り合わなきゃダメよ! でも酔っぱらった若造の話が通用するほど世の中甘くないからね」。厳しくハッパをかけられた思い出がある。案の定、後で聞いた録音テープは聞くに堪えないもの。即消去。そんなさぼうるも今では18時閉店。名物のいちごジュース(750円)を飲みにやって来る女子たちが行列を作っている。
そんな中、アタシはピーナツをつまみに生レモンサワー(650円)で昼飲みに精を出す。浮きまくること甚だしい。
現在はコロナの影響から時短営業のままになっているが、いずれ18時からのバータイムの営業も再開するつもりだと現店長が話してくれた。おっさんにはありがたい情報だ。
閉店の18時前に店を出たが、どうにも飲み足りないアタシは路地を逆に戻り、次の店へ。顛末は次回に。
(藤井優)
○神田伯剌西爾 千代田区神田神保町1-7 小宮山ビルB1
○さぼうる 千代田区神田神保町1-11