新子安「諸星」は働く大人の憩いの場 横浜に2軒だけ残る「市民酒場」でアイラモルトを
第30回新子安(横浜市神奈川区)
このコラムのタイトルは「昭和の街が大ブーム」なんだけど、新子安がブームになっているとは思えない。が、昭和な街であることは確か。昭和という時代を支えた労働者の街だからだ。
武蔵小杉、川崎あたりを飲み歩いていると古い居酒屋は間違いなく働く大人の憩いの場であることがわかる。働く男が家族に見せられない姿をさらせる場所。愚痴、泣き言、色っぽい話……なんでも受け入れてくれる。そんな店が新子安にあると聞いて行かないわけにはいかんだろう。
アタシにとっては初めての土地。駅の周りは歩道橋や立体交差が多く、うっかりしてると階段の上り下りで痛い目に遭う。国道2本に挟まれ、その間にJRと京急が並行して走っているのだから、そりゃ立体交差も多くなる。この街は日産と日本ビクターの城下町。そんな街で仕事を終えた男たちが寄る店が今回うかがう「市民酒蔵諸星」だ。
ここは戦時中に酒屋や酒場を整理、統合するために作られた横浜の「市民酒場」。市内に今も残る「市民酒場」は2軒で、諸星はそのうちの1軒である。
開店の午後4時半になると3代目店主の諸星道治さんが暖簾をかける。と同時に待っていた客が店内になだれ込む。30分もしないうちにほぼ満席。働く人より働き尽くしてリタイアした客が中心のようだ。左側には7メートルほどの対面式カウンター、右側は4人掛けテーブルが6卓ほど。目の前にはずらりと短冊が並ぶ。