神田司町にある1905年創業の居酒屋「みますや」で蘇ったドジョウ汁の思い出
子供のころは嫌だったけれど
昭和40年代初期、アタシが子供の頃は魚屋で普通にドジョウが売られていた。店の入り口脇の大きな樽に生きたドジョウが入れられていて、驚くほど安く買うことができたのだ。明治生まれの祖母は疲れると「精をつける」と言ってドジョウ汁を作って食べていた。それをアタシに食わせようとするのだが、子供のアタシはこれが嫌でね。それが、半世紀以上もたつと「サイコ~」とか言いながら丸煮をほおばるようになるのだから変われば変わるもの。が、左右4組のカップルの前にドジョウは見当たらない。食べているのは正面の先輩とアタシだけ。左隣の20代らしきカップルは横目で恐ろしげに眺めている。
「ここに来たら、これを食わなきゃ」。おせっかいオヤジのアタシが周りにも聞こえるように話し掛ける。「おいしいんですか?」と女子。「うまいなんてもんじゃないよ。食べてみたら?」「いえ、大丈夫です」。なにが大丈夫なのか。最近の若者言葉は理解不能だ。アタシはさっさとビールを飲み干すと、ドジョウをつまみに銘酒白鷹の熱燗(500円)。2合徳利を傾ける先輩と目が合い思わず会釈。先輩も杯を上げて応えてくれる。「いい酒場だなあ」。思わず声に出てしまった。
(藤井優)
○みますや 千代田区神田司町2-15-2