「温泉付きSA、暮らしていける説」を検証すると、そこは「極楽浄土」だった
こんなところで“整える”とは
車を飛び出しトイレへ急行、小便器に穴が開くのではという勢いで出し切って、いざ温泉へ。
脱衣所で服を脱ぎ捨て、クルミのように縮み上がった自分の分身をさすり、「もう大丈夫だよ」といたわってやる。いざ浴場に入って驚いた。サウナと水風呂まで備わっているではないか。こんな場所で“ととのえる”とは。湯船に漬かると、震えるような寒さの苦しみさえいとおしくなる。こここそが極楽浄土だ。
心身ともに復活した後、コンビニでカイロを購入し、フードコートで熱々のラーメンをすする。巣に戻り、カイロを両足の裏、腰、背中、首に貼ると、温泉効果も相まってぐっすり眠ることができた。
翌日、昼間は車内からリモートワークで仕事をこなし、お腹が減ればフードコートへ向かう。各店舗で特産グルメが提供されているのもうれしい。バラエティー豊かで飽きることはない。
夜はスマホを眺めながら時間を過ごし、頃合いを見てまた温泉へ。体を温めた後、全身にカイロを貼り付けて目をつむる。そのまま朝を迎え、再び仕事に取りかかる。
俗世を忘れ、せわしなく行き交う人々を見送りながら、目的地も急ぐ必要もない自分に気づく。そこには不思議な優越感があった。いつしか通りすぎる人々の安全を祈る余裕さえ生まれていた。
結局3泊を過ごしたが、時間が許すならもっといたかった。慣れればこの上ない快適空間だった。
「ずいぶん長い時間、高速にいたけど、何かありました?」
料金所で尋ねられたため、
「SAで休んでいました」
正直に答えると、とがめられることはなかった。胸をなでおろして下界へハンドルを切った。