政治学者・白鳥浩氏が金権腐敗の自民党を一刀両断「岸田首相は“小泉劇場”の再来、再浮上を狙っている」
求められる「令和の政治改革」
──総裁選があった21年分の政治資金収支報告書によると、岸田派は組織活動費として1億円超を支出。6派閥の22年分の総額を上回っていた。表に出ている分だけでも巨額です。
「平成の政治改革」で衆院は中選挙区制から小選挙区比例代表並立制となり、派閥単位で候補者を擁立できなくなりました。派閥政治や金権腐敗を払拭し、政党本位・政策中心の選挙への転換を目的としたものでしたが、官邸あるいは党本部に権力が集中。総裁や幹事長に誰が就くかで公認、ポスト、カネの差配は左右されることから、我先に主流派を目指し、派閥間競争が苛烈になった。この仕組みの恩恵を享受してきたのが、ほかならぬ安倍派。安倍1強を維持するため、政治資金パーティーを舞台にした錬金術で得たカネで子分を増やしてきた。強大な力を持つ最大派閥の行き過ぎた不正に疑問を差し挟めなかった成れの果てが、裏金事件なのです。小選挙区制の是非も含め、30年前の政治改革を評価し直す必要がある。大ナタをふるわないと国民の留飲は下がらないでしょう。「令和の政治改革」が求められています。
──ザル法と言われる政治資金規正法改正による厳罰化が俎上に載せられていますが、具体的なところでは?
パーティー券購入者の公開基準引き下げ。まずは寄付とそろえて5万円超にした方がいい。会計責任者が有罪になった場合、議員が自動失職する連座制の導入。国会から独立した第三者機関を設け、カネの流れをチェックしなければなりません。収支報告書のデジタル化も必須です。国民には紙の健康保険証を廃止してマイナンバーカードと一本化すると迫っているのに、政治資金は手つかずなんて通りません。「平成の政治改革」で創設された政党交付金もしかり。自民党への交付は昨年が159億円超、今年は160億円超の見通しです。満額受領はどう考えてもおかしい。減額、不交付などのペナルティーを科すべきです。違法薬物事件が起きた日大への私学助成は、3年連続で全額不交付ですよ。政治資金は「入り」だけでなく「出」も見えるようにしなければ意味がない。政党が党幹部に毎年多額の支出をしている政策活動費や、国会議員の「第2の財布」とされる調査研究広報滞在費(旧文通費)の使途公開も早急に実現すべきです。
■「財布」透明化は待ったなし
──政治家の「財布」の透明化は待ったなしですね。政治家ではない親族による政治団体の継承についてはどうですか? 安倍元首相夫人の昭恵氏が億単位の資金を抱える亡夫の政治団体を非課税で引き継ぎ、問題視されています。
政治資金が税制優遇されているのは、その活動に公益性が認められるためです。政治活動を行わない場合は、通常のルールにのっとって処理するのが筋でしょう。議論の余地があります。
──「政治とカネ」をめぐる問題はすべてテーブルにのせてほしいです。
自民党任せでは一歩も前に進みません。衆参両院議長の名の下、国会としての協議体を立ち上げ、与野党だけでなく、専門家や有権者も加わって議論するべきです。政治不信は極大化しています。自民党への信頼が損なわれているだけでなく、日本の政治そのものに対する信頼が損なわれている。立法府の責任が問われています。
──国会でやれるんでしょうか。
リクルート事件を受けた政治改革の議論は半年ほど要しました。通常国会で方向性を固め、少しずつ手直ししていくのが現実的ではないでしょうか。昭和のロッキード、平成のリクルート、令和のパー券。ホップ・ステップ・ジャンプではありませんが、「政治改革」でなすべき本当の解をいい加減に出さないと、この国の政治は立ち行きません。
(聞き手=坂本千晶/日刊ゲンダイ)
▽白鳥浩(しらとり・ひろし) 1968年生まれ。早大政治経済学部政治学科卒、早大大学院政治学研究科修了。博士(政治学)。静岡大助教授、英国オックスフォード大客員フェローなどを経て現職。専門は現代政治分析など。著書に「二〇二一年衆院選 コロナ禍での模索と『野党共闘』の限界」(編著、法律文化社)など。「シリーズ・現代日本の選挙」(ミネルヴァ書房)の選挙分析には定評がある。