<第5回>「痛いなんて言ってる場合じゃない!」恩師の怒声にキレかけた
【連載】 鈴木明子 スケート人生「キス&クライ」
アルメニアでの直前合宿、私と(浅田)真央は行動を共にしながら最終調整をする予定でした。
真央は団体戦で五輪独特の雰囲気や重圧を感じているように見えました。お互い自分自身を見つめ直す状況なのは、話さなくても何となくわかります。だからこそ、一緒に調子を上げていこうと考えていました。
でも、私は両足の痛みが治まらず、リンクでは泣き叫ぶばかり。苦しむ私の姿を見ている真央は、時折近寄ってきて「大丈夫?」と声をかけてくれました。
その言葉一つ一つがうれしかったものの、私の胸中には複雑な思いも湧いてきました。
「こんな私の姿を見ながらの練習では、せっかく調子が上がってきた真央も、ペースを乱してしまうかも……」
私は練習時間を、あえて真央とずらすことにしました。
真央にとっても私にとっても、異国での、それもいつもと違ったオリンピックという特殊な環境の中で、それぞれ自分たちのペースを確保する。私にはそれが最善だと思いました。