<第5回>「痛いなんて言ってる場合じゃない!」恩師の怒声にキレかけた
■絶望感に包まれ迎えたSP本番の朝
絶望感に包まれふさぎ込んだまま、アルメニア合宿は終了。2月19日の個人戦SP(ショートプログラム)当日の午前に行われた本番最後の公式練習でも、足の激痛でジャンプは思うように跳べません。動揺から、普段なら当たり前のようにできる表現やエッジワークも精彩を欠くばかり。「完璧」には程遠い内容で、メダルや入賞を狙えるような状況でないことは一目瞭然でした。
練習を終え選手村の自室に戻ってもやりきれない思い。数時間後に本番のリンクに立つ自分の姿を想像すらできません。
「この気持ちを誰かに聞いてもらいたい……」
先が見えない中、脳裏に浮かんだのは、子供の頃から私のスケートをどんな時でも見守ってきてくれた母の優しい顔でした。
(つづく)
▽すずき・あきこ 1985年3月28日、愛知県生まれ。6歳からスケートを始め、15歳で全日本選手権4位。東北福祉大に進学後、一時、摂食障害を患い休養。04年に復帰。10年バンクーバー五輪初出場。13年全日本選手権初優勝。14年ソチ五輪出場。今年3月の世界選手権を最後に現役を引退した。